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生物多様性基本法がついに誕生! この法律をしっかりと活かそう。

2008.07.01
活動報告

会報『自然保護』2008年7/8月号より転載


種の保存法、鳥獣保護法、自然公園法など、自然環境にかかわる法律はさまざまありますが、対象となる生きものや場が限定的で、個々の法律を少しずつ改正するだけでは、自然を総合的に守るための法律として、限界がありました。私たちは、生きものの総体としての生物多様性を保全していくには包括的な基本法が必要であることを提言し続け、ようやく実現しました。

1999年にNACS-Jを含めた自然保護・野生生物保護団体44団体は「野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク」を結成し、「野生生物保護基本法(案)」(03年)として市民提案をまとめ、地域で活動する団体や個人の皆さんからも賛同を募り、各政党・議員に働きかけを行ってきました。

これを受けて、民主党が08年1月に「生物多様性基本法案要綱(案)」を公表し、パブリックコメントを募集しました。一方で、自民党や公明党も有識者などへのヒアリングを行うなど、法制定への動きが加速しました。NGOから要望を出しつつ、与野党協議が進んだ結果、5月28日に参議院本会議全会一致で「生物多様性基本法」が誕生しました。

国内だけでなく地球規模の課題である「生物多様性の損失」にどう取り組むのか、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催国である日本には、その姿勢とリーダーシップに、世界から注目が集まっています。制度・政策の理念や基本原則を示す「基本法」は、具体的な権利や義務を定めた法律ではありません。絵に描いた餅にしてしまわぬよう、私たち国民もその内容の意味や可能性、有効な使い方を考え、各地での自然保護・生物多様性保全の活動のはずみにしていきましょう。

(大野正人・保護プロジェクト部)


ここに期待と注目!「生物多様性基本法」のポイント

(1)生物多様性保全の理念を法律で明文化

生物多様性は、人類の生存基盤であり人類共通の財産であること、地域の文化をも支えていること、次世代へ引き継ぐ責務があること、予防的原則と順応的管理の考え方など世界的な通念を取り入れたことは画期的。

(2)「生物多様性国家戦略」に法的裏づけ

生物多様性国家戦略を法的な計画として位置づけ、国のほかの計画(例:国土形成計画、河川整備基本方針など)は「生物多様性国家戦略を基本とする」という一文も入った。事業省庁に気兼ねしない、より実効力のある国家戦略をつくらなければならない。また、地域の生態系を損なわないよう配慮した国土利用と管理が国に求められていることも注目しておきたい。

(3)地方自治体による「生物多様性地域戦略」

努力義務ではあるが、地方自治体に生物多様性地域戦略をつくることが求められている。地域戦略をつくる際には、地域で活動する市民団体の力が不可欠となるので、地元の地方自治体の動きに注目しよう。

(4)各法律の点検・改正

自然環境・生物多様性にかかわる各法律の施行状況を点検・検討し、各法の改正をすることが附則として盛り込まれた。「種の保存法」「自然環境保全法」「自然公園法」など課題が多いものは早く改正すべき。

(5)政策づくりに民意を反映

生物多様性にかかわる政策をつくる際、国民に対し聞き置くだけの意見を求めるのではなく、公正性・透明性の確保し民意を反映することがうたわれた。環境分野における市民の権利の確立、市民参加を促すことを目的とした「オーフス条約」(日本は未批准)にもつながる内容である。

(6)税制についても言及

生物多様性保全のための法制上・財政上のことだけでなく、「税制上の措置」(環境基本法にもない)が盛り込まれた。今後、生物多様性が豊かな土地の所有・相続の際の免税措置や「生物多様性税」などの税収の可能性が期待できる。

(7)「計画立案段階での環境影響評価」(SEA)の推進

生物多様性に影響を及ぼす事業の計画立案段階から影響調査・予測評価を行い、事業を実施しないという選択肢も含めた検討・配慮を事業者に求めている。SEAの具体的実施を進めるには、今後、新しい法制度が必要となってくる。

(8)生物多様性保全型産業・消費活動を活性化

生物多様性に配慮した事業活動(原材料調達も含む)を促進し、国民にそのような事業による商品の選択・消費をするよう勧める記述が盛り込まれた。

(9)教育の推進、人材の育成

学校教育・社会教育においての生物多様性の教育の推進が盛り込まれた。教育現場の状況を変えるためにも、地域の自然観察指導員の関与が必要となってくる。

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