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海岸植物群落保全のための10の提言 ~市民参加の海岸植物群落調査分析結果から

2008.07.01
活動報告

会報『自然保護』2008年7/8月号より転載


2004~08年の4年間、砂浜を対象に実施してきた市民参加の海岸植物群落調査の分析結果がまとまりました。調査には1202人が参加し、37道府県1308件の海岸データが集まりました。07年には砂浜の外来種6種の追加調査を実施し、352件のデータを得ました。

これにより、全国の砂浜とそこに生育する植物群落の実態が明らかとなり、危機に直面する海岸植物群落を守るための方向性を提言としてまとめることができました。調査に参加していただいた会員の皆さまには、この場を借りてお礼申し上げます。主な結果の一部を紹介します。なお解析は、千葉県立中央博物館の由良浩さんの指導と参画を得て実施しました。

日本の海岸は人工物だらけ

9割近くの砂浜には何らかの堅牢な人工物が設置されていました。人工物がなく海岸植物も豊かな砂浜は全体のわずか7%でした。堤防のような人工物が砂浜と内陸を分断している浜では植生は貧相になり、逆に人工物がなく浜の奥行きが大きいほど種数は多くなり、植生帯(生育する範囲)の幅も広くなっていました。植生の全くない浜は狭い浜が多いことが分かりました。

080701人工物の多い砂浜

080701自然の砂浜

▲人工物の多い砂浜の植物群落(左)と、奥行きの広い自然の砂浜の植物群落

日本中の浜に外来種が生育

北海道から東北にかけてはオニハマダイコンが、鹿児島から東北にかけてはコマツヨイグサが分布していました。これは、ほぼ日本中の浜に外来種が入り込んでいるか、入り込む可能性が非常に高いことを示しています。アメリカネナシカズラ、オオフタバムグラ、アツバキミガヨランは中部日本を主な分布域としていました。オオハマガヤは、人為的に海外から持ち込まれ大規模に植栽されている外来種ですが、すでに日本海側を中心に広範囲に分布していました。現地では、在来の植物が生育する余地がないほど砂浜に広範囲に密植されている様子が複数個所で見られました。

砂浜は主に陸側から狭められた

国土地理院発行の地形図を用いて砂浜の奥行きの変遷を独自に調査した結果、砂浜の奥行きが大幅に減少していることが分かりました。1952年ごろは平均して302mあったのが、93年ごろには83mと4分の1近くにまで減少していました。原因は、海からの侵食による場所もありましたが、マツ林植栽や市街化、道路の建設などにより、砂浜が陸側から狭められてしまったものがほとんどでした。
このほか海岸植物群落の生育に悪影響を与えているのは、人の踏み付け、護岸工事、台風、ゴミ・廃棄物の投棄が大きな要因であることが分かりました。
この成果は、国の第3次生物多様性国家戦略や中長期的な展望に立った海岸保全検討会中間とりまとめに対する意見として提出したほか、今後も海岸管理関係機関に提案していきたいと考えています。

(開発法子・保全研究部)


海岸植物群落保全のための10の提言

自然の海岸の保全と復元

①現存する自然の砂浜は、自然環境保護地域として早急に保全策を講じる
②各地に基準となる自然状態の海岸を復活させる
③クロマツ保安林を見直し砂浜の復元を図る
④外来種の侵入、定着を防ぐ

砂浜への人工物建設のあり方

⑤堤防はこれ以上つくらない。どうしても必要な場合はできるだけ内陸側につくる
⑥侵食防止は安易に堅牢な人工物を建設せず、原因を追究し原因を排除する観点で対策を講じる
⑦人工物が海岸植物群落に与える影響についての科学的調査と検証を行う

海岸の利用、管理のあり方

⑧NGO、市民参加の海岸保全・管理計画を策定し、海岸管理を行う
⑨海岸保全・管理にかかわる委員会、検討の場に生態学・環境社会学などの専門家の参画を得る

海岸の自然環境モニタリングの必要性

⑩国の施策として、海岸の自然環境のモニタリング調査を実施する

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