兄島のノヤギの排除にかかる 多大な労力・予算・時間。
2008年5/6月号より転載
小笠原では、野生化したヤギ(ノヤギ)の存在で植生が壊れていくことが、いくつもの島で問題になってきました。その中でも、特に植生の重要性が高く、被害が深刻な兄島で、東京都が2004年から、本格的にノヤギの排除を進めています。
脆弱な自然環境下の作業は固有種などに極力影響を与えないよう配慮しながら進める必要があるため、目標達成に向けての計画づくりや作業の進め方の方向性の決定・承認などを行う検討委員会が設置されています。
この兄島ノヤギ排除検討会は、植物や動物生態に関する専門家がメンバーとなり、NACS-Jからは横山常勤理事が参加しています。その第8回会議が3月18日にあり、事業の結果とその効果の評価、08年度の方針が討議されました。
←父島で野生化したノヤギ。変換直後から随時排除を行っているが、完全排除に至っていない。現在のヤギが分布しているのは、父島、兄島、弟島の3島である。
希少種の繁殖時期に工事が重なってしまった
これまでの4年間で排除されたノヤギの総数は387頭となり、08年2月以降の目撃情報は0頭となっていることから、兄島については、ほぼ排除に成功した状況であることが報告されました。
しかし、検討会で討議された内容どおりに進められていない状況があることも判明しました。昨年7月の検討会では、ノヤギの生息範囲を徐々に狭めていくことを目的に、総延長1万2000m(総費用概算2億4000万円)の分断柵を設置する計画案が東京都から提示されました。
これは兄島の自然を特徴づける、非常に特殊な乾性低木林を一部とはいえ伐採しなければならず、同時に、希少種生息地への影響が少なからずあることなどから、「自然への影響が最小となる場所で、希少動植物の繁殖時期を考慮した施工時期に行うこと」を条件に、一部区間のみ、事業実施を検討会として認める答申を行いました。しかし、今回の検討会で、実際には工事の発注時期が遅れたことから、最も避けるべき時期に事業が行なわれてしまったことが報告されました。
←兄島(ほぼ全域)の山頂緩斜面を中心に広がる5~8mの乾性低木林は、母島に残存する湿性高木林とならんで、小笠原を代表する固有の森林タイプである。
私たちが相手にしているものは、ほんの少し手を加えただけでも大きな影響が出てしまう脆弱な生態系です。科学的な根拠を基に行っていることですら、その影響は予想できないことがあります。そのため相当のリスク管理が必要であり、問題が発生した場合や状況が変化した場合は、きちんと立ち止まり計画を見直すことが重要です。
予算の効果的な使い方を
これまで小笠原の生態系修復には多額の予算・税金が投入されています(2006年度の事業費はNACS-Jが把握しているものだけで4億円余り)。一度失われた自然を取り戻すためには、多大な予算と時間がかかるものであり、いかに壊さないかが最も重要なのです。NACS-Jは、壊された小笠原の自然を回復し、保全していくために、この膨大な予算と時間をいかに効率的・効果的なものにしていくかを提言し、新たな破壊が起きないためのしくみを強固なものにしていきます。
(保護プロジェクト部・辻村千尋)