綾の照葉樹林プロジェクト 人工林の自然林への復元手順が決定。
2008年1/2月号より転載
NACS-Jは、宮崎県綾町で地域のNPO、行政とともに照葉樹林の復元に取り組むプロジェクトを展開しています。
2006年度は人工林から自然林に復元するときの基礎データとなる林床調査や人工林伐採後の二次林調査を行いました。その結果、人工林の林床植生は隣り合う自然林から約90m離れた場所では、種数が半減することや、鳥が種子を散布するヤブニッケイなどの若木が多いことが分かりました。それに比べ、種子が鳥によって運ばれず、ほ乳類や昆虫などによって食べられることの多いイチイガシやハナガガシなどのブナ科の植物は少数でした。ブナ科の植物が人工林内部に侵入するには時間がかかると考えられます。
人工林伐採後の10~15年経った場所ではシロダモ、ユズリハ、イヌガシ、シキミの4種のみが優占していました。これは侵入後の初期の成長が速いことやシカによる食害が少ないためです。
この調査結果に基づいて、自然林への復元にあたっては自然林に隣り合う人工林から間伐を始め、復元の程度に応じて徐々に人工林の内部に向かって間伐を進めます。
その際に尾根の自然林と谷の自然林では構成している種が違うので、両側から進める方がよいのですが、谷は一般的に急峻で林内も暗いため尾根からよりも復元に時間がかかる可能性があります。シカの食害の影響があるので、一度に大きく間伐せず、モニタリング調査をしながら調整します。伐採木はそのままにするか、垣根のように積み上げ、シカの行動が妨げられるようにするなどの工夫をします。初期の食害がひどい場合には植物が2~3m程度の大きさに成長するまでシカ柵を設置する方法も有効だと考えています。
今後も引き続き、専門家や市民の人たちと協力してモニタリング調査を実施し、その結果に基づいて、より効果的な復元方法を模索していきます。
(保全研究部・朱宮丈晴)
▲隣り合う自然林からの間伐の模式図