25年ぶりの南硫黄島自然環境調査速報。無人島にも人間活動の影響とみられる変化。
会報『自然保護』No.500(2007年11/12月号)より転載
調査の目的は、島の成り立ち、生物の生態、遺伝的・形態的多様性など、自然環境の現状を明らかにすることです。また、現在、南硫黄島を含む小笠原諸島は世界自然遺産への登録が検討されており、今回の調査結果は小笠原諸島の世界自然遺産としての学術的な価値を明らかにすること、無人島の保護、利用のルールづくりなどに生かされる予定です。
25年前の調査時にもNACS-Jは植生調査を行っており、今回の調査でも植生調査を担当し、この25年間でどのような変化があったかを把握することができました。正式な成果報告書は今年度出版される予定ですが、ここでは植生調査の結果の一部をご紹介します。
南硫黄島の生態系を支える雲霧林
調査は標高別に5つの調査地点を設定して行いました。その結果、調査地点全体でコブガシなどの樹木13種、ナンバンカラムシなど草の仲間19種、エダウチヘゴなどシダ植物14種、合計46種が見られました。下の図に標高別の高さ130cm以上の植物、それ以下の林床植物、着生植物(樹木や岩盤の上に生えるシダなど)の種数割合の変化を示しました。
130cm 以上の植物の種数は標高によってあまり変化しないのに対して、着生植物の種数は標高が上がるにしたがって増加し、林床植物の種数は減少しています。この結果から、雲霧によって湿度が高くなる標高500m以上では、着生植物が発達した雲霧林がつくられていることが見て取れます。この雲霧林が空中を漂う雲霧を水へと変え、南硫黄島の生態系を支える水源としての役割を果たしていると考えられます。
しかし、前回の調査結果や写真と比較した結果、雲霧林が減少していることが分かってきました。原因の可能性のひとつに気候変動が考えられます。また、25年前には見られなかった外来種のクリノイガが見られました。最も近い硫黄島などを経由して侵入したと考えられます。このように、人の利用が全くない原生自然であっても、雲霧林の減少や外来種の侵入など人間活動の影響の可能性がある変化が見られました。無人島の環境の適切な保全管理には、継続的な調査が必要です。
(朱宮丈晴 保全研究部)
(写真)山頂部の雲霧林の様子。コブガシにナンカイシダ、タマシダ、ウミノサチスゲ、などが着生している。