戦略的な保全地域情報システムをつくり 予防型の保全の実現を目指しています。
会報『自然保護』No.499(2007年9/10月号)より転載
情報を共有し 重ね合わせることができる
このシステムの利点は、行政、市民、専門家など自然保護に関心のある人々の間で、情報が共有できることです。
現段階では、一般への公開はまだこれからですが、「Google Earth」を閲覧ソフトに用いて、日本の自然保護地域の場所や、重要な植物群落をリストアップした特定植物群落(環境省)、危機に瀕した植物群落をリストアップした植物群落RDB(NACS-J)が実際どのように分布しているか、高速道路やダムなどの開発がどこにあるか、など利用者が欲しい情報を抜き出し、地図上で重ねて見ることができるようにしました。
▲三重県の特定植物群落(赤)、国立(緑)・国定公園(橙)・県立自然公園(桃)を重ね合わせ、Google Earthで表示した状態
解析してみると意外な結果が
SISPAを使って、重要な自然地域がどのくらい実際の保護地域に指定されているか、を検証した例を紹介します。国立・国定公園、県立自然公園が、特定植物群落をどの程度覆っているのかを調べるため、GISソフトを使ってデータを重ね合わせ、都道府県別に集計しました。
この結果、三重県(91.6%)や奈良県(90.7%)のように90%以上が3つの保護地域によって覆われている県もあれば、京都府(4.4%)や千葉県(18.4%)のように非常に低い県もあることが分かりました。
▲都道府県別に特定植物群落が保護地域(国立・国定公園、県立自然公園)で覆われている面積の割合 (環境省の自然環境GISの国立公園、国定公園、特定植物群落、NACS-Jで作成した県立自然公園のGISデータを用いた)
また、全国を8つの地域に区分して同じ解析を行うと(右表)、沖縄地域は地域全体の面積中の特定植物群落面積の割合が6.9%と高いのですが、その特定植物群落が3つの保護地域で覆われている割合は34.3%と極端に低く、保護策としての地域指定が不十分であることが分かりました。
ただし、県の条例で指定されている保護地域なども含めて解析を行うと、値は増加します(例:千葉県44.4%)。戦略的な保全のためには重要な自然地域がどの保護地域のどの地種区分(例えば国立公園であれば特別保護地区かどうかなど)に属しているかも重要となるため、今後、自治体が指定している保護地域などいろいろなレベルのデータを加え、さらに詳細な解析を行っていく必要があります。
このような分析には精度の高い最新の情報をできるだけ多く蓄積していかなければなりません。NACS-Jでは、独自に作成している海岸植物群落調査、里山モニタリング、自然しらべなどの最新のデータも蓄積し、まずは全国の危機に瀕した自然地域と、人々が後生に残していきたいと考えている自然地域をリストアップして「日本の重要自然地域RDB」を作成したいと考えています。
そして、日本の国土全体から見た自然保護や地域ごとの自然保護に活用していくとともに、会員の方々にも利用していただけるように整備を進めていきます。
(朱宮丈晴・保全研究部)