絞り込み検索

nacsj

「エコツーリズム推進法(案)」の審議に意見書提出

2007.07.19
要望・声明

 

19日自然第25号
2007年5月24日

 

各政党 観光/環境部会 部会長 宛

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

 

「エコツーリズム推進法(案)」の審議に関わる意見書

 

日本自然保護協会(NACS-J)は、1994年に「NACS-Jエコツーリズム・ガイドライン」を発行し、「エコツーリズム」(別紙1)を「自然や文化を保全する社会的なしくみ」とすることに強い関心を持ち、地域の保全活動に取り入れてきた。

 

この度、第166回通常国会にかけられる「エコツーリズム推進法案」(議員立法)では、「自然環境が持続的に保護されることがエコツーリズムの基盤である」という基本理念が掲げられ、モニタリングによる科学的評価のもと適正な利用と順応的な管理を行う手法が取り入れられている。この点については評価するところである。一方、本法によってエコツーリズムを安易に地域振興や観光に取り入れた場合、単に自然を商品化し消耗につながりかねないと危惧される。各地でエコツーリズムと名づけてすすめられていることがらからは、下記の課題がみいだされている。この改善のためには、本法案の審議、及び成立後の運用に十分な配慮をし、自然環境ならびに生物多様性の保全に貢献する制度として機能させる必要がある。

 

本法案の付帯決議や、今後国が策定する基本方針に関しては、議員立法という側面も踏まえ、特段の留意をしていただきたく、意見を述べる。

 

1.エコツーリズムを「生物多様性保全に貢献する社会的なしくみ」とすること。

第7回生物多様性条約締約国会議では「生物多様性保全とツーリズム」が決議された(別紙2)。国際的観点からも、エコツーリズムは地域の生物多様性保全に貢献するものでなければならない。エコツーリズムの基盤となる自然環境の保全は、本法案が定義している旅行者の活動のみに留まらず、「地域の自然・文化の保護に貢献する社会的なしくみ」がつくられてこそ可能といえる。現在見直し作業にある生物多様性国家戦略を社会的なしくみにしていくためにも、エコツーリズムを生物多様性国家戦略上明確に位置づけるよう本法案の付帯決議をつける、また国が策定する基本方針の冒頭で、生物多様性国家戦略の達成のツールとしてエコツーリズムを位置づける、などの対処を行い本法と国家戦略の連携強化を図るべきである。

 

2.モニタリング調査の科学性と客観性を担保すること。

利用や立入制限を検討する際には、自然環境のモニタリング調査の結果が重要な判断材料となる。特に、これまで利用してこなかったゆえに残された自然を利用したいと考える場合には、現状を把握し影響を予測・評価するなど慎重なアセスメントを行うことが必要である。モニタリング調査の科学性と客観性を担保するため、国が策定する基本方針には、対象や実施体制と評価・反映のしくみ(順応的管理)を具体的に記述し、体制や資金獲得についても地域の実情に応じ適切に運用できるよう助言等を行うことが必要である。(別紙3)。

 

3.エコツーリズム推進施策の方向づけには、専門家や関係者等の意見を反映させること。

国は、エコツーリズムの総合的かつ効果的な推進を図るため、関係省庁職員で構成される「エコツーリズム推進連絡会議」を設置することになっている。このようなしくみは一般には省庁間の連絡調整で終始してしまうことが少なくない。このような会議体においては、専門家や関係者等、より専門的な立場や現場の立場からの意見を聞く機会を設け、国の推進施策の方向づけをしていく必要がある。

 

4.マスツーリズムや大手観光業者等への対処に、適切に関与すること。

地元自治体や事業者側の意図により、当該自然が脆弱であるか否かに関わらず、経済性が優先され、許容量以上の利用者が入ってしまうといった、従来型の観光と変わらないマスツーリズムに開放されかねないと危惧する。また、大手旅行会社がそれを誘導し、地域発の取り組みの場や機会を奪ってしまうことは回避されなければならない。本法案の目的にそぐわない計画・利用実態と判断された場合には、技術的助言(第十三条)を第三者評価の機能を持つよう有効に活用し、必要な人材を派遣し評価・アドバイスするなど国が適切に関与すべきである(別紙4)。

 

5.協議会の運営や合意形成への対処を確保すること。

エコツーリズム推進協議会に事業者に限らず様々な関係者が参画できるとしたことは「自然保護に貢献する社会的なしくみづくり」につながるための第一歩ではある。しかし、協議会運営や合意形成の経験を持つ人材や機関は少なく、自然再生法による地域協議会でも合意形成に至ることができていない実例も見受けられている。エコツーリズム推進協議会においても合意形成の難しさが伴うことは容易に想像される(別紙5)。国が策定する基本方針において、総合的・合理的な合意形成を行う方法・運営のあり方を示すべきである。

 

6.既設の保護地域(国立公園や国有林)との整合・調整をはかること。

本法では、「特定自然観光資源」を指定することで、市町村長が行為規制や立入制限などが行えるようになるが、国立公園や国定公園、国有林の保護林など既設の保護地域内に重複して指定する場合には、どのような管理となるか疑問が残る。適切な管理・運用が行われるよう、環境省・林野庁・市町村による役割を明確にし、各制度の利点を生かした調整・整合を推進協議会の場を通じてはかれるよう、対策を折り込むべきである。

以上

 


 

 

【別紙 参考情報】

 

1.エコツーリズムの定義について

NACS-J資料集『NACS-Jエコツーリズム・ガイドライン』(1994 )では、「「エコツーリズム」と「エコツアー」というよく似た2つの用語について定義と相互関係を検討した。(中略)「ツーリズム」と呼ぶ場合、(1)ツアーの形式だけをさすのではなく、(2)ツアー形式とそれを支える周辺の条件、ツアーの効果、成果などを含む全体像を指すべきだと考えた。」としている。

 

2.生物多様性とエコツーリズムの連携について

第7回生物多様性条約締約国会議(2004年マレーシア)において、生物多様性とツーリズムの開発に関するガイドラインが採択された。(脆弱な陸域及び海域や生物多様性にとって重要な生息域、保護地域等における持続可能なツーリズムに関連する行動のための国際的かつ自発的なガイドライン)。本法案の基本理念に「エコツーリズムは、自然観光資源が持続的に保護されることがその発展の基盤であることにかんがみ」とあるとおり、生物多様性国家戦略との連携を強化することで、自然観光資源を保全し、エコツーリズム発展の基盤の担保に寄与すると考える。

 

3.モニタリング調査の必要性について

NACS-J会報『自然保護』2006年1/2月号(No.489)「特集:「エコツアー」を企画する人のための7つのポイント」で、オーストラリアビクトリア州フィリップ島自然公園の例を紹介した。来訪者が増え生息地が踏み荒らされたためにペンギンが減少。10年以内に消滅するとの予測に基づきNGOも含めた「科学諮問委員会」が組織され、環境教育プログラムの提供・利用規制・植生回復作業が行われている。各種規制に対して地元住民や観光客からも理解が得られるのは、モニタリング調査で得られるデータの説得力によるところが大きい。なお、入場料収入のすべてが活動資金に充てられている。

 

4.マスツーリズムと自然観光資源

エコツーリズムでは、今まで観光資源にしてこなかった(=利用してこなかった)自然を対象とする場合も多い。観光の目的・手法を変えることなく、対象を自然に置き換えただけの観光がエコツーリズムではないことは、本法案でも明言されているが、利用しなかったからこそ残されていた自然を利用したいと考える際には、現状を把握し影響を予測・評価をするなど慎重な扱いが求められる。とくに、影響が大きいマスツーリズムに対しては、回避措置の確保が必要である。

 

5.推進協議会運営について

適正な立ち入り人数の設定手法や技術が確立されていないため、モニタリング調査のデータが少ない初期段階では、観光振興のために希望的な人数を設定して、自然観光資源の過剰な利用や整備が行われることが懸念される。地域が主体になり責任をもつ協議会運営や合意形成が鍵を握るため、自然再生法などでの経験を活かして運営の向上にあたってほしい

 

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する