【調査結果速報】 砂浜の生物多様性危機の実態が明らかに!
会報『自然保護』007年5/6月号より転載
2003年から全国の砂浜海岸を対象に実施してきた、市民による海岸植物群落調査の3年半に及ぶ調査結果がまとまりました。
調査にはNACS-J会員・自然観察指導員を中心に1000人以上が参加し、36道府県1251件の海岸データが集まりました。調査では、海岸に生育する植物群落だけでなく、砂浜の様子や人工構築物などの海岸の環境と、人々の利用状況について調べました。
今回は、一部集計結果から、初めて明らかとなった全国の海岸の実態について速報します。
海進む海岸の人工化
73%の海岸で、堤防や護岸、道路の建設、クロマツ植林などが行われて砂浜が分断され、奥行きが狭められていました。
その分、海岸植物群落の生育地が減少したといえます。また、海側にも陸側にも人工物がない自然の海岸は、わずかに1割未満でした。
海海岸植物の多様性の危機
海岸の人工化により潮風や砂の移動が抑えられると、本来なら海岸には生育できない内陸の植物が入り込み、海岸植物の生育地が狭められ減少してしまいます。
生育している海岸植物の種数は、半数以上の海岸で5種以下となっており、10種以上の生育が確認された海岸は、全体の8%でした(図3)。本調査では、奥行きのある自然状態のよい海岸では、おおむね20種以上の海岸植物が見られました。
植物群落の生育状態については、「壊滅状態」とされた海岸は約20%を占め、半数以上の海岸で生育状態が「悪い」とされました(図4)。
群落への悪影響の要因として、最も多かったのは、人の立ち入り(踏みつけや車の乗り入れなど)。次いで、護岸工事、台風、ゴミ・廃棄物などの投棄でした(図5)。
海岸にも外来種が!
30府県412海岸で北米原産のコマツヨイグサの生育が確認されたほか、キミガヨランやオオフタバムグラ、アメリカネナシカズラなどの外来種が、各地の海岸で生育していました。中でも東北地方を中心に大規模に植栽されているオオハマガヤは、大きな脅威となっています。
▲コマツヨイグサ(左)と、アメリカネナシカズラ(右)
緊急に保全が必要な砂浜環境
このほかにも、全国の海岸で浸食による砂浜の減少が深刻化しています。今後、地球温暖化による海面上昇が現実のものとなった場合、人工化の進んだ奥行きのない砂浜は、植物群落とともに多くが失われてしまう恐れがあります。
砂浜は、海岸植物群落の生育地であるとともにコアジサシの営巣地、ウミガメの産卵地、貝類・昆虫類など多様な生物の生息地でもあります。これら生物の生育・生息環境を守る上でも、海~汀線~砂浜~後背地と連続した海岸環境を保全する必要があります。
保全の具体策を提言する
海岸は、国交省、農水省といくつもの省庁に分かれて管理されており、国レベルで日本の海岸全体の自然環境をモニタリングし、保全を図る体制ができていません。これに対し、NACS-Jでは、今回の結果に基づき、海岸の植物群落の具体的な保全策を検討し、海岸管理に携わる行政機関などに提言する予定です。
(開発法子/保護・研究部)