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戦略的環境アセスメント(SEA)導入ガイドラインにパブリックコメントを提出しました。

2007.03.15
要望・声明

2007年3月15日

戦略的環境アセスメント(SEA)導入ガイドライン(案)に対する意見

(財)日本自然保護協会 理事長 田畑貞寿

1)戦略的環境アセスメント(SEA)の早急な制度化

当協会は、環境影響評価法によるアセスメント(EIA)の改善とSEAの法制度にむけた政策として、SEA総合研究会によるSEAガイドライン(案)をとりまとめたことに期待と注目を寄せている。すでに、EUをはじめとする環境先進国ではSEAの制度を導入し、国内の各自治体でも導入されはじめている。2010年の生物多様性条約締約国会議の日本開催を政府で表明しており、開発による生物多様性の損失を防ぐための制度を整備することが世界的にも求められることになる。しかし、SEAガイドライン(案)では、手続きを「画一的なものとすることを目的とするものではない」「対象計画の特性・・・に応じた柔軟な取扱いを妨げるものではない」と記述しており、法的根拠がないため各事業の都合のよい解釈や運用がなされることが危惧されるため、早期にSEAを法制度化し、世界の趨勢に応えるべきである。

 

2)各事業ガイドラインの作成

SEAガイドライン(案)にもとづいた各事業種のガイドラインの作成にあたっては、SEAの基本的な考え方・手続き・方法が骨抜きにならぬよう措置が必要であり、その際は、ガイドラインの実効性を高めるためにも環境省は積極的に関与すべきである。

 

3)ガイドラインの対象計画

SEAガイドライン(案)の対象事業は、環境影響評価法で定める事業に留まらず、環境影響の大きい事業や民間事業も明確に含めるべきである。環境影響評価法では、特例とされている港湾計画、都市計画、発電所事業の取扱いについても、事業の位置・規模等を検討する段階での環境影響評価や住民・専門家からの意見反映は、合意形成のうえでも不可欠であるため、対象として含め、SEAガイドラインに則した手続きを行うべきである。特に、SEA総合研究会でも議論がされた発電所事業は、電源開発という公共事業の側面を持ち、一方で企業の社会的責任が求められることからも、SEAを導入すべきである。

 

4)風力発電事業のSEA導入

風力発電事業について、NEDO(新エネルギー・産業技術総合機構)による「風力発電のための環境影響評価マニュアル」により、助成事業のうち大規模なものについては環境影響評価の調査が実施されているが、調査・評価内容・手続きが不十分なうえ、あくまでマニュアルのため強制力はなく形骸化しており、各地で問題となっている。このような状況から条例アセスの対象としている自治体もあるように、アセス法のEIA対象事業にすべきである。また、位置・規模の検討段階において、環境影響を予測・評価し、住民に公開し意見を反映させることが重要なため、SEAを導入すべきである。

 

5)住民とのコミュニケーションの必要性

SEAガイドライン(案)に記述されているように、住民に積極的な参画・協働を推進し、地域環境の将来像や地域特有の環境に対する価値観、地域の環境情報を把握することで、よりよい計画が作成されることを期待するならば、評価方法・評価文書(案)の公表と意見の提出という手続きだけでなく、住民に対する計画策定者の説明責任や合意形成に繋がるコミュニケーションの必要性についても記述すべきである。

 

6)評価方法書に対する地方公共団体や環境省の意見

SEAのスコーピングについては、比較の対象となる複数案を決定し、重要な環境項目について重点的に評価を行うことが事業の実施段階以上に非常に重要であることから、評価方法書の段階で広範な環境情報にもとづいて行われるよう、住民・専門家等から意見を聴くことはもちろんのこと、地方公共団体や環境省が意見を述べる手続きにすることが必要である。

 

7)環境省大臣意見の形成に第三者機関の活用

環境省大臣意見を形成する際には、規模や影響の度合いに応じて専門家を集めた第三者機関に諮問するしくみを、その過程と結果の透明性を確保したうえで設けるべきである。国の事業の場合、複数案の比較において、環境省の「環境保全に関する行政を総合的に推進する立場」を貫くうえでも第三者機関は不可欠である。また、ガイドラインでは、「環境大臣は必要な場合に意見を述べる」とされているが、その判断を、透明性の確保と説明責任から、第三者機関に諮るべきである。

 

8)SEAの評価結果の取扱い

SEAの評価結果が計画・プログラムの最終的な総合判断に反映されるという明確な位置づけをし、その見解を公表することが重要である。SEAガイドライン(案)では「環境影響評価方法書の作成に活かすこと」とだけ記述されているが、2001年7月に発効されたEUのSEA指令のように、環境への配慮をどのように反映し、住民・専門家等の意見が意思決定の際にどのように考慮されたのか、他の合理的な代替案に照らし最終的な計画・プログラムを選択した理由が明らかにされなければならない。

 

9)ゼロ代替案も複数案にいれて評価する

ゼロ代替案(「事業を行わない」代替案)も複数案の一つとして、事業が行われなかった場合の環境影響評価・比較検討の基礎として明らかにすることが必要である。環境影響の著しいことが明らかな場合は、計画そのものの中止も選択肢として考慮するべきである。

 

10)水質の理論式ボーレンワイダーの妥当性

ボーレンワイダーは、ダム計画などにおいて水質予測の手法として用いられているが、すべての湖沼・貯水池にあてはまるほど完全なものではないことが多くの研究者により指摘されている。このため、SEAの予測手法の具体的事例としてあげるべきではない。

 

11)SEAの今後の課題

SEAガイドライン(案)は対象を「事業の位置・規模等の検討段階のもの」としたため、本来SEAの対象である「政策」「計画」「プログラム」のすべてを範疇とせず、アセス法による「事業アセス」から複数案比較ができる「計画アセス」の導入をめざすものといえる。しかし、根拠となる「政策」や「計画」の立案段階でも、環境配慮を行わなければ、本来のSEAの目的は達成されず、広域的・累積的・複合的な影響についても改善されない。今回対象とならなかった「政策」や「計画」についても、法制度化に向けた今後の課題として取り組むべきである。

以上

担当:保護・研究部 大野正人


(参考)

■環境省報道資料(平成19年3月1日)

戦略的環境アセスメント導入ガイドライン(上位計画のうち事業の位置・規模等の検討段階)(案)に対する意見募集について
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8098

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