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「有明海・八代海総合調査評価委員会報告案」 に対する意見を提出

2006.12.18
要望・声明

2006年12月15日


有明海・八代海総合調査評価委員会報告案に対する意見

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

(財)日本自然保護協会は、諫早湾干拓事業に関わる自然環境の変貌について、2001、2002年に現地調査活動を行い、大規模な貧酸素水塊の発生を指摘しました。その上で、問題点を明らかにし、潮受堤防の水門開放と埋立事業の中止を求めてきました。また、環境省による有明海の水環境の影響調査の実施と、この問題を解決するための特別措置法の必要性なども提言してきました。この度、有明海・八代海総合調査評価委員会(環境省設置)によってまとめられた報告案のパブリックコメントに対し、自然環境保全の立場から意見を述べます。


1.有明海に発生した各種の異変に諫早湾干拓事業が大きく影響していることを評価委員会の見解として、明確に示すべきである

貧酸素水塊の発生やタイラギなど水産資源の減少といった有明海の異変が、明らかに諫早湾干拓事業と因果関係にあることは、多くの研究論文等で指摘されており、またこの報告案のなかに示された調査結果からも、諫早湾干拓事業の影響が示唆される。過去の埋立や干拓、河川事業等の複合的影響も無視できないが、時系列・規模的にみても、諫早湾干拓事業による影響が多大であることは明白である。しかし、諫早湾干拓事業との関係が4章5に「浄化能力の低下及び諫早湾海域での潮流速の減少が生じた」との一文でしか述べられていないのは、あまりにもお粗末である。有明海の異変と諫早湾干拓事業との因果関係の考察・検証が十分なされておらず、評価委員会報告として妥当ではない。

もっとも大きな要因と考えられている諫早湾干拓事業との関係を明確にしていない点は、検討内容の設計そのものに問題があり、恣意的な報告内容となったといわざるをえない。



2.具体性のない「再生方策」では、課題を積み残すだけである。評価委員会は潮受け堤防の中・長期的な開門調査を行うよう提言し直すべきである

有明海の異変の原因を明らかにし、緊急に改善策を講じていかなければ、環境や漁業への影響は深刻化の一途をたどると考えられる。しかし、5章3「具体的な再生方策」では、諫早湾干拓事業については何も触れられず、モニタリング調査だけが記述され、まったく具体性のない方策をならべただけである。例えば、干潟、藻場の保全や造成があげられているが、具体的にどのような場所・手法で行う必要があるのかが記述されていない。

再生の方策として、まずは有明海の潮流速の減少を解消させる必要がある。また、様々な異変の原因と発生のメカニズムを検証するためには、諫早湾干拓の潮受け堤防を中・長期的に開門して調査・検証を行い、諫早湾干拓事業そのものを再検討し、健全な諫早干潟に戻していくことこそが有明海の再生の道筋である。



3.評価委員会は第三者機関としての機能・役割を果たすためにも、研究者・漁業者・市民の声を真摯に受け止め、具体性のある再生方策を策定すべきである

評価委員会は、政治や行政の判断とは別に、第三者的かつ科学的な判断をするために設置されたものである。委員会の基本的な考え方として「原因・要因の考察については、その特定自体は目的ではなく、再生に向けた措置に資する」としているのは、委員会設置の目的をゆがめ、社会的な責任を放棄するものである。また、報告案の内容からも、第三者的かつ科学的な議論のために適切に評価委員会が運営されたのか、疑わざるをえない。

環境悪化の原因を現在の科学的な知見に基づき、最大限明らかにしていかなければ、再生策をたてられるものではない。多くの研究者からは、科学的なデータにもとづき、諫早湾干拓事業と有明海の異変に因果関係があること、潮受け堤防の中長期の開門調査を実施すべきであることが提言されている。これら研究者をはじめ、有明海の異変を日々の生活のなかで実感し、続く不漁による影響を被っている漁業者や市民の声を、評価委員会は真摯に受け止め、実行性のある具体的な再生方策を策定すべきである。

以上

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