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人材の育成・確保が急務 -鳥獣保護・狩猟の適正化措置への「報告書素案」に意見-

2006.01.16
要望・声明

 


 

■環境省の関係サイト

http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=6657

 


■1、人材育成・資格制度の必要性

【1 該当箇所】
P5 (4)科学的・計画的な保護管理の推進 イ 人材の育成・活用
「・・・、こうした人材を確保する制度の構築や、特定計画の実施に資する民間団体の育成など、人材を育成・確保する仕組みの充実を図る必要がある。」

【2 意見の要約】
生物多様性保全の意義を理解し、鳥獣保護管理の知識・技術を有することを証明する制度が狩猟免許とは別に必要であり、将来に向けた鳥獣保護管理に関わる人材の育成と確保をすべきである。

【3 意見及び理由】
これまでは、狩猟者団体が個体数調整の観点から野生鳥獣の保護管理の一端を担ってきたが、狩猟者は減少と高齢化が深刻化している状況のなか、鳥獣保護法の目的に「生物の多様性の確保」が加わり、野生生物問題も、希少種の保護、外来種の防除、国際条約への対処など、多様化しており、野生生物の科学的保護管理に従事できる専門的技術者の配置や民間団体の関与が必要不可欠となっている。

また、「野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク」が行った都道府県の鳥獣保護担当者へのアンケート結果でも、特定鳥獣計画の改善点として「人材の育成と配置」がトップであげられている。現在、都道府県の鳥獣保護担当職員は、行政職または林業職の職員が担当することが多く、3年前後で異動しているため、基本的な知識や技術が蓄積されず、継続的な施策に成り得ていない場合が多々見受けられる。

したがって、鳥獣保護行政に関わる地方自治体や民間団体の担当者は、生物多様性保全の意義を理解し、調査、被害対策、捕獲の専門性をもった技術者が望まれる。狩猟免許とは別に、鳥獣保護管理の知識・技術を証明する制度が必要であり、将来に向けた鳥獣保護管理に関わる人材の育成と確保をすべきである。

■2、特定計画制度から、地域計画制度の創出

【1 該当箇所】
P3 2 特定計画制度の充実

【2 意見の要約】
特定種の個体数調整に重点の置かれた特定計画から複数種を対象とした地域計画制度を創設すべきである。地域計画は、環境省地方環境事務所の支援のもと、県境を越えても策定することができることとする。

【3 意見及び理由】
特定種の個体数管理に重点の置かれた特定計画から複数種を対象とした地域ごとに計画を立てられる制度を創設すべきである。地域計画は、都道府県の県境を越えても策定することができるものとし、その際には、環境省地方環境事務所もその策定を積極的に支援すべきである。
特定計画は「当該都道府県の区域内においてその数が著しく増加または減少している鳥獣(法第7条)」に対して策定できることになっており、法文上個体数の調整があたかも特定計画の目標のごとくに位置づけられているが、被害防除・個体数管理・生息地管理が保護管理の柱として小委員会素案でも検討されている。

あるべき鳥獣保護行政としては、数の増減を策定の根拠とすることはあまり意味を持たず、人の生命・財産や農林業等に被害を起こすあるいは商業利用価値が高いために狩猟・有害捕獲などの捕獲圧の高い鳥獣に対しては、地域的な絶滅の防止の観点から保護管理が必要である。その意味では、人との利害関係を強く持つ鳥獣すべてに対して本来、計画的な対応を図るべきだろう。

しかし、地方行政における人材不足とりわけ鳥獣保護担当部局の人員の不足は大きな問題となっており、県内に関係する研究機関もないまま、1~2名の担当者がいくつもの特定計画を管理することもあり、膨大な事務負担に苦しんでいる現状がある。
また、被害防除および生息地管理は、鳥獣保護法の規定のみならず、農業農村整備事業や森林整備計画といった農林部局等との調整を必要とするものであり、縦割り行政の枠を超えた農業試験場や農業改良普及センター等の多様な主体の協力が必要不可欠となるだろう。

したがって、上記のような複数種を対象とした地域計画制度が必要である。

■3、鳥獣保護事業計画・特定計画のあり方

【1 該当箇所】
P3 2 特定計画制度の充実

【2 意見の要約】
特定計画の補助金が廃止された現在、計画制度の策定が積極的に行われるしくみを確保するため、特定計画に対する都道府県知事の権限を強化し、多様な保護管理の選択肢を法律上用意すべきである。

【3 意見及び理由】
特定計画は、各自治体の体制・意欲によって内容の良し悪しに大きな差の生じやすく、特定種ごとに計画策定の傾向が異なり、特定計画策定を誘導するしくみの有無が重要となる。例えば、シカの特定計画については、その計画を策定することにより狩猟によるメスジカ捕獲が可能となるため、生息分布域のほとんどの道府県が策定しているのに対し、イノシシにおいては特に計画を立案するメリットがないために、イノシシの特定計画数は分布域から見ると相対的に少ない状況が生じている。

特定計画策定の際に利用可能な補助金が平成16年に廃止され、鳥獣保護事業計画も含め都道府県が特定計画を樹立する際のメリットを失った現在、都道府県が積極的に特定計画を導入して科学的な保護管理を推進するよう、特定計画に対する都道府県知事の権限を強化し、多様な保護管理の選択肢を法律上用意すべきである。

たとえば、以下のようなことがしくみとして考えられる。

  1. 特定計画に必要な基礎情報として、狩猟者に対して狩猟による捕獲頭数の報告を義務づけることができるよう法文を修正する。
  2. 縦割りの弊害をなくし農林部局との連携を図り、利用可能な予算・人的資源を活用するために、農林業被害の防除に関する項目を特定計画の計画項目として明文化する。
  3. 都道府県知事が、捕獲許可や入猟者数を柔軟に設定するために、多様な手法を取れるように制度を改める。

■4、狩猟の場の転換

【1 該当箇所】
P6 「一定の区域についての入猟者数を調整できる制度について検討」
P7 「鳥獣保護区および休猟区の配置や、休猟区等も含めた捕獲地域の見直しを進め」
P10 「ワナ等の使用を禁止あるいは制限する地域制度の導入」

【2 意見の要約】
狩猟の場は、保安上の観点および科学的保護管理の観点から可猟区を定めるような場の転換を目標とし、当面は乱場をきめ細やかに区分できるよう、多様な地域制度を導入し、柔軟な運用の可能な制度とすべきである。

【3 意見及び理由】
現行の乱場制は、狩猟事故等の保安上の観点および鳥獣の科学的保護管理の観点から適切な制度とはいいがたい。仮に狩猟を「鳥獣の保護管理に貢献しており、科学的な保護管理の考え方の下で今後ともその役割を果たしていくことが期待される」ものとして位置づけるのであれば、現行のような、鳥獣を自由に捕獲できない場所を定めるより、鳥獣の捕獲圧を高める場所を可猟地域に設定する方が合理的といえる。

当面は国土面積の70%を占める乱場(可猟区)を山塊・流域などで区分し、猟具の規制や狩猟で捕獲可能な種を指定するなど保護管理上の目標を設定できるようにし、科学的保護管理が進むようにすべきである。

具体的には、都道府県知事が、鳥獣保護事業計画において地域区分ごとの保護管理の目標を設定したときは、知事の権限で狩猟期間、狩猟対象種、許可される猟具、狩猟者の入りこみ人数、捕獲可能頭数、捕獲鳥獣の報告義務などを決定し従わせることができるよう法改正すべきである。

■5、捕獲個体の資源利用の問題

【1 該当箇所】
P6 (5)適切な捕獲の推進
「鳥獣の保護管理に必要な捕獲の促進のためにも、捕獲個体を資源として有効に利用する方策について関係行政機関等と鳥獣保護担当部局が連携協力して検討することも重要である。」

【2 意見の要約】
「捕獲個体を資源として有効に利用する」を具体化した場合、捕獲個体によって得られた収益の問題、野生動物利用の市場化による懸念、食品安全上の管理体制の課題などの複雑な問題が生じる可能性がある。

【3 意見及び理由】
狩猟捕獲された個体の自家消費などについて、自己責任の範囲での利用は許されるものであるが、有害捕獲や特定計画による捕獲奨励などの税金を利用した公的活動により得られたものについては、全部またはその一部は本来的には公に帰属すべきものである。そのため「鳥獣の保護管理に必要な捕獲の促進」にあたっては、以下3点の問題が生じる。

  1. 有害捕獲や特定計画によって捕獲された個体の資源利用は、税金を使って捕獲されたことを考慮すると、その収益は保護管理に必要な調査費用等に還元されるべきものであって、捕獲従事者がすべての利益を得ることは不適当である。
  2. 資源の有効利用が野生動物の市場化につながる危険性をはらんでいる。市場とは安定供給を求めるものであり、保護管理に支障をきたす供給への圧力に対して歯止めが効かなくなる可能性が大きく、そのコントロール体制は整っていない。
  3. 野生動物は、管理された家畜とは異なり衛生環境・生息環境に関して個体ごとの質の幅が大きく、衛生管理が極めて大きな問題として生じる。野生動物由来感染症や食の安全・安心を脅かすような事態を避ける十分な管理体制が求められる。

■6、わな猟の基準等の厳格化について

【1 該当箇所】
P9 (2)狩猟・捕獲従事者の確保と育成
「現行の「網・わな猟免許」を「網猟免許」と「わな猟免許」に分ける」

【2 意見の要約】
安易に鳥獣を捕獲しやすくするような制度改正は問題であり、錯誤捕獲の懸念から、わなの取り扱いについては厳格な運用が必要である。わな猟免許の創設には、指導・助言のために行政も含めた体制の整備が必要である。

【3 意見及び理由】
網猟免許とわな猟免許への分離により、特に被害を直接受けている農家など新たな免許取得者が増え、それに伴い、野生鳥獣の知識や捕獲経験のない者によるわなの架設が増え、結果として錯誤捕獲が増大する懸念がある。安易に鳥獣を捕獲しやすくするような制度改正は問題であり、わなの取り扱いについては設置基準の厳格化など適切な取扱いが行われるよう配慮する必要がある。特に、見回りの励行と錯誤捕獲個体の放獣など適切な取り扱いについて、行政が積極的の助言・指導ができるよう体制整備に努めるべきである。

よって、記述内容を「適切な設置方法の普及を図る必要がある」から「適切な設置方法の普及ならびに見回りの励行、錯誤捕獲個体の適切な取扱いの指導・助言を図る必要がある」と変更すべきである。

■7、特定計画対象種(特定種)に関する特例事項

【1 該当箇所】
P6 (5)適切な捕獲の推進
鳥獣保護区及び休猟区の配置、休猟区等も含めた捕獲地域の見直しについて

【2 意見の要約】
特定計画対象種について鳥獣保護区、休猟区等の狩猟禁止地域で当該特定種の狩猟を可能とする特例事項を設ける制度については、鳥獣保護区・休猟区の本来の趣旨を損ねることのないよう適切な運用が必要である。

【3 意見及び理由】
鳥獣による農林業被害を背景とした捕獲地域の見直しの議論にあっては、特定種に対する狩猟捕獲の可能な地域を拡大する議論、具体的には、特定計画対象種について鳥獣保護区、休猟区等の狩猟禁止地域で当該特定種の狩猟を可能とする特例事項を設けることが検討されている。

これについては、単に捕獲圧を高めるために鳥獣保護区・休猟区を廃止する案に比べれば、特定計画の枠内で実施されるため一定の科学的管理が担保できると思われるが、特にわな猟の場合は錯誤捕獲の懸念もあり、鳥獣保護区・休猟区の本来の趣旨を損ねることのないよう鳥獣保護員等による監視強化をとあわせて実行する必要があると考える。

■8、特定計画の課題

【1 該当箇所】
P4 特定計画制度の充実 (1)現状と課題

【2 意見の要約】
特定計画の課題として「調査・モニタリングのための予算確保」を追加する。

【3 意見及び理由】
科学的保護管理の最も基礎的情報となるものは、野生鳥獣の生態調査やモニタリングであり、この件については、平成14~16年にかけて行われた野生鳥獣保護管理検討会の報告書『野生鳥獣保護管理検討会報告書~新たな野生鳥獣保護管理に向けて~』および、野生生物保護法制定をめざす全国ネットワークが昨年行った都道府県アンケート概要で指摘されている。

■9、地方環境事務所の役割

【1 該当箇所】
P4 (2)特定計画の実施にかかる関係主体の連携 イ 広域的及び地域的な連携

【2 意見の要約】
P4 最終行「考え方を基本指針において整理する事が必要である」を「考え方を基本指針において整理し、地方環境事務所を通じて、都道府県による広域的連携を支援することが必要である」と修正する。

【3 意見及び理由】
地方環境事務所を広域的連携の中に位置づけるべきである。

以上

 

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