小笠原・南島5年間の自然環境モニタリング 夏季の過度の利用を避けることが必要
2005年11/12月号より転載
NACS-Jは2001~05年度、小笠原・南島の自然環境モニタリング調査(東京都委託)を通して、自然環境、微地形変化や利用状況など多角的な視点で継続調査を行なってきました。
▲南島の自然観察路に設置した方形枠(1m×1m)内の植被率(折れ線赤)とそのうちの在来種であるコウライシバの植被率(折れ線緑)。 棒グラフは在来種:帰化植物の優先度比率の変化。
南島では観光客の増加に伴う影響が問題となっています。図は自然観察路に設置した方形枠内の植被率とそのうちの在来種であるコウライシバの植被率を折れ線で示し、在来種と帰化植物の割合の変化を棒グラフで示しました。過度の利用と台風の降水により、02年9月に観察路の崩壊が起こり、植被率は低下しました。03年4月から南島入島の人数制限を開始していますが、土壌はいまだ安定していません。クリノイガなどの1年生草本の帰化植物が主に侵入し、多年生草本の在来種の回復は少ないのが現状です。
小笠原諸島全体がここ30年で乾燥化傾向にあり、中でも南島は強風、乾燥が激しく、また、台風で海水をかぶることによる植物の枯死、観察路の土壌侵食なども多く観察されました。観察路の利用が集中する8月は台風の時期とも重なり、特に過度の利用を避けることが必要です。
現在の南島はノヤギによる植生破壊後30年かけて厳しい環境に適応しながらようやく成立した回復過程にある生態系であり、モニタリング結果を考慮して、保護と適正な利用のバランスをとる必要があります。
(朱宮丈晴 保全研究部)