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●外来種問題のギモン(3)

2004.03.01
解説

会報『自然保護』2004年3/4月号より転載


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▲教材として使われることがあるアメリカザリガニ。

学校で出会う外来種の生きもの事情

小学校生活科では、ほとんどの教科書でアメリカザリガニを教材に取り上げています。子どもに人気のあるアメリカザリガニは、これまで生息していなかった北海道でも確認されるようになりました。
また、学校には、ミシシッピアカミミガメや飼いウサギなど、飼いきれなくなったペットが持ち込まれることがあります。持ち込みを断ったために勝手に野に放たれるより、受け入れ先を紹介したり、責任を持って飼育したりしながら、子どもたちに機会を見て外来種問題を伝えていくほうがよいのではないでしょうか。
外来種問題は、保護者や教師の考え方に大きな幅があります。利害がからんでいたり、善意と信じて餌付けされたり、野に放たれたりすることもあるのです。単なる一方的な外来種批判は、人間関係に負の影響を与え、問題をかえってこじらせかねません。経過をよく調べたり、相手の立場も考えたりしながら、今後どうしていったらよいのかを、ともに考えていきたいのです。自然観察会での扱い方も同様です。

「自然」とふれあうイベントを見直す

自然愛護 (?) のイベントに子どもが参加し、ニュース面をにぎやかすことがあります。ほかの地域からホタル、メダカ、サケなどが持ち込まれ、遺伝子攪乱など考えていない場合が多いようです。学校現場の無知を批判するのはたやすいのですが、問題はそう簡単ではありません。たいていの場合、教育委員会を通しての要請なので、学校は断りにくいのです。学校ビオトープも同様な問題を抱える場合があります。
そんなとき頼りになるのは、次の3つです。

1つは、地元の自然をよく理解している市民。自然観察指導員ならもっとよいでしょう。
2つ目は研究者。博物館の学芸員や大学の研究者が発言することは、説得力があるからです。
3つ目は2002年に環境省が作成した「いのちは創れない――新・生物多様性国家戦略」のパンフレット。

このパンフは各学校にも配布されましたが、そのことを知る教職員は多くありません。しかし、この「黄門様の印籠」は大きな切り札になります。実際にこの3つの連携プレーでホタルの放流イベントを中止させた例もあるのです。

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環境省作成のパンフレット「いのちは創れない」。
残部希少のため、入手方法・詳細は下記へ問い合わせ。
環境省自然環境局自然環境計画課
Eメール:NBSAP@env.go.jp
Tel:03-5521-8273 Fax:03-3591-3228

生きものの世界の多様性とつながりを伝えよう

考えていかなければならないのは、子どもたちが「命は大切」という基本的な教育の中で、「生きものの多様性とそれらのつながり」を学ぶ機会がたいへん少ないことです。外来種問題を考えるとき、これらのことはとても大切で、学校では総合的な学習の時間や特別活動を活用して、地域の生きもの調べをし、地域の自然に興味・関心を持ってもらいましょう。そして地域の自然観察指導員に授業協力者として参加してもらったり、PTAの家庭教育学級で、博物館の学芸員に講演してもらったりしながら、教師や保護者が子どもたちとともに外来種問題について理解を深めていきましょう。

(NACS-J自然観察指導員講習会講師/南足柄市立福沢小学校・一寸木 肇)

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▲学校教材用の壁新聞で外来種問題を扱ったもの。
(発行: 世界通信社 Tel:06-6353-1366)


◆昆虫を飼いたい子どもを持つ保護者の方へ

ペットは、昆虫であっても、飼い主がきちんと世話をしなければ健康に生きていけません。だから飼い主には、いちど飼い始めた昆虫に対しては、死ぬまで幸せに生活できるように世話する責任があります。
これに対し、外に放してあげることがペット昆虫にとって、より幸せと思う人もいるようです。狭い飼育ケースの中ではなく、広い野外へと。また、どうせ逃がすなら、町中よりも雑木林の多い郊外へと。けれども、その一見やさしそうな考え方・行為こそが、ペット動物に関するさまざまな外来種問題を引き起こしてきました。そこで起こるのは、逃がしたペットと、自然の中にくらすもともとの生き物たちとの、とても困った混乱です。子どもたちが家庭で昆虫を飼いたいといったとき、大事なことは飼い主としての責任の自覚の機会にすることです。「何があっても、ペットを外へ放してはいけない、死ぬまで面倒をみなさい」と。そして「その約束ができなければ飼う資格はないのだよ」と。

(神奈川県立生命の星・地球博物館・高桑正敏)


◆なぜリリースせずにはいられないの?――バス釣りへの疑問

バス釣りを楽しむ人たちは、なぜ釣った魚を逃がすのでしょう。「ルール?」、いいえ、守るべきものではなく、慣れ親しんだ習慣です。でも、それゆえ変えにくいのかもしれません。釣った魚の処置を考えずにすむ手軽さを奪われるとなると、「面倒だ」との本音も出てきます。
「かわいそう」という気持ちも自然な感情ですが、動物福祉の立場をつきつめ、釣った魚を逃がさず食べて初めて、釣りという人間の行為が正当化できるとする国もあるのです。また、逃がしたバスがさらに多くの命を奪ってしまうことにも思いをめぐらせてほしいものです。
正直なところ「いる魚を釣っているだけ。しばられたくない」のでしょう。しかし、多くの水域では、彼らに対して「手にしたバスを戻さないことくらい協力してほしい」との思いがあります。「なぜリリースせずにはいられないのか」について、バス釣りをしない人たちにも納得できるような説明がないと、それは身勝手な非常識に映りかねないのです。

(滋賀県立琵琶湖博物館・中井克樹)


侵略的外来種、なぜこの10種を選んだのか

すでに日本でも2000種を超える外来種が野生化し、私たちの身の回りにくらしている。東京でも多摩川の河原の植物の8割以上は帰化植物であるし、1969年頃からカゴから抜け出たオウムの仲間のワカケホンセイインコは、900羽もの群れになり都心を飛んでいる。東京は国際都市なのだから、外国の生き物がいてもいいではないかと道行く人から話しかけられたこともあった。外来種問題の難しさは、一般社会の感覚で普通に考えてしまうと取り返しのつかない事態の発生を防げなくなることがあること。

このおびただしい外来種の中に、「侵略的外来種」と区分されるものが現れている。地域在来の生き物の生息を根底から脅かすため、対策が待ったなしとなっている。その中でも、「究極の待ったなし」はどれなのか。編集部では、悪影響が深刻なので対策を本格的なものに強化しなくてはならないもの、悪影響が確実となってからでは打つ手がないので今すぐ対策をとるべきもの、人々の意識や社会のルールを変えなければ対策自体が決められないものという三つの深刻度のタイプから、10種類の問題を選び代表種をまとめてみた。

深刻さの程度が高く、長年問題視されつづけてきたマングースのように、あらゆる面で外来種対策の教訓となるものはすぐにあがった。しかし多くが、このようにわかりやすいものではなかった。問題の存在自体ほとんど一般に知られていないもの、外来水草のように水槽の中で増え続けているのを見てもちっとも危機感を感じられないもの、人によっては自然の中にいてもいいのではといわれているものまで含まれた。対象生物の見かけと被害の深刻さの落差、状況の多様さこそが、外来種問題のもう一つの特徴である。

このような中、私たちは何をすればよいのだろう。まずは、

  • (1)外来種問題の解決に取り組む人たちを応援したい。
  • (2)その土地の自然に対して悪影響が疑われる生き物は持ち込まない、持ち込ませない。
  • (3)野生化できる可能性のある生物は輸入禁止とする、特例で輸入されたものが万一野生化した場合は、輸入者の費用負担で回収させること等を定める法制度を一刻も早く備える。
  • (4)知識と意識を一人ひとりが隣の人に伝え、珍しいからと安易に買ったり、人にあげたり薦めたりというような、外来種侵入の援助になることはをしない、

という4点に尽きると思う。どこかで平和に生きていたはずの生物を侵略的外来種などというものにしたのは、残念ながら私たちの社会なのである。

(編集長・横山隆一)

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