「MIKUNIプロジェクト(仮称)」が始動します! 群馬県・三国山地/利根川上流・赤谷川
会報『自然保護』No.473(2003年5/6月号)より転載
この谷の自然をよく知り、今ある自然を確実に守りたい
この地域は、ほぼ全域が国有林で上信越高原国立公園の一部、渓流を清冽な水が流れることから、村の重要な水源にもなっています。開発計画が見直された後、
林野庁は、ツキノワグマ・イヌワシ・クマタカなどの生息環境となっている山脈沿いの森林を「緑の回廊」に指定しました。また群馬県庁は、猛禽類繁殖地周辺
を含むよう、鳥獣保護区を拡大し、当面の保全策がとられています。しかし、かつて山々を覆い、谷を守っていたブナの森は、中ほどまでが昭和30年代初めに
伐採されています。谷にすむイヌワシの繁殖率が高くないことも、本来はこの地域がもっと良い自然であったことを裏づけています。
この赤谷川の自然を科学的な方法でより深く知り、適切な保全と回復のための計画を立てたい、NACS-Jはそう考えてきました。その構想に対し、今年、地域
社会と林野庁関東森林管理局が呼応し、プロジェクトを3つのセクターでともにつくり、すすめていくことに合意しました。谷は、奥に行くほど原生度が少しず
つ高まっていき、森林生態系と河川生態系の生態学的な保全をベースとする計画地域は、6000ha以上の広大な範囲におよびます。
プログラムの概要
プロジェクトは、研究系、保護系、環境教育系と社会系プログラムで構成し、まず5年間のプログラムを企画します。NACS-Jから提案するプログラムは次のような目標を持っています。
(1)研究系プログラム
地域のナチュラリストや全国規模の調査研究グループと協力し、インターンシップ制度での人材確保もすすめ、この谷の自然を調べて、保全に必要な科学的根拠
を蓄積します。継続してきた猛禽類調査は、計画的なモニタリングの一部として再構築します。関係する多くの機関との連携や、研究者と会員・指導員の方々が
パートナーになって自然を調べるアースウオッチ方式の活動も計画中。多くの方々の協力を仰ぎます。
(2)保護系プログラム
自然本来の複雑さ、多様性をゆっくり取り戻すには何をしていけばよいか、保全のためのあらゆる制度を駆使した「21世紀型保全モデル」を考えます。計画が
できたならば、「緑の回廊」の拡大や保護林の設定、人工林の自然林への復元も提案していきます。
(3)環境教育系プログラム
保護地域の非消耗型の活用は、全国で試行錯誤が続いています。適切なゾーニングをした上で、ハードウエアに頼らないローインパクトで高品質な環境教育の実践
モデルをつくります。環境管理を伴ったそのための場づくりは、会員の方々や非会員の方も誘っていただけるフィールドワークと、ブナの森で生まれた知恵を
知っていただく機会になります。ここで開催する自然観察指導員講習会や研修会も企画し、教材化を図ります。NACS-Jの環境教育のホームグラウンドを目ざします。
(4)社会系プログラム
かつての開発抵抗型の活動形態は、持続的な地域環境づくりの形態に明確に移行します。この自然保護活動の段階を変化させていく過程を記録し、プロジェクトそ
のものを研究対象にして、「パートナーシップのモデル」をつくります。その中では、会員の方々のこのプロジェクトへの参加プログラムも用意します。谷の入
り口の宿泊施設・川古温泉・浜屋旅館や村内の湯宿温泉・金田屋旅館(NACS-Jネイチャーイン)、法師温泉・長寿館はこのプロジェクトの拠点となり、自然と地域に関心を持つ人たちとの交流にご協力いただけます。
谷の入り口まで、上越新幹線を利用するとNACS-J事務局からちょうど2時間。NACS-Jの50年間の経験を、この谷に結実させてみたいと思います。
(横山隆一/常務理事・総合プロジェクト担当)