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「調査等の適切な方法を決める前にすでに調査が終わっており、法の趣旨に反している」

2003.02.13
要望・声明

「新石垣空港整備事業に係わる環境影響評価方法書」(平成14年12月 沖縄県)に対する意見


記者発表資料

2003年2月13日

「『新石垣空港整備事業に係わる環境影響評価方法書』

(平成14年12月 沖縄県)に対する意見」について

財団法人日本自然保護協会(NACS-J)

(財)日本自然保護協会は、『沖縄県・新石垣空港建設計画』について、石垣島東岸の「白保サンゴ礁」上への建設案が、顕在化した1985年から、独自の調
査に基づいて「白保サンゴ礁生態系」を評価し、その保全のために、その後3度変更された建設計画に対して意見を述べてきました。

 

去る12月から沖縄県によって「新石垣空港整備事業に係わる環境影響評価方法書」が縦覧され、意見が求められていました。

 

この新石垣空港整備事業に係わる環境影響評価手続きは、環境影響評価法に基づく大規模事業に対する手続きとして最初のもののひとつであり、今後、全国各
地で実施される各種事業に対する環境影響評価手続きに大きな影響を与えることが予想されます。特に、同じ沖縄県の沖縄島・辺野古沖サンゴ礁上での建設が取
りざたされている米軍基地建設事業に係わる手続きの前例として参考にされることは確実です。

 

このような状況の中、当協会が、その内容を検討した結果、大変多くの問題点を持つことが明らかになり、添付のように沖縄県に対して意見書を提出しました。

 

なお、この白保サンゴ礁生態系を含む石垣島東岸は、環境省も国立公園の海中公園地区として位置づけるために検討を進めている場所でもあります。

参考資料
●白保サンゴ礁生態系の評価について:
   (財)日本自然保護協会 「新石垣空港建設がサンゴ礁生態系に与える影響」1991
●新石垣空港建設問題の経緯について:
   (財)日本自然保護協会 「自然保護NGO 半世紀のあゆみ」 2002 平凡社
      ビジュアルは、付属CD-ROMに掲載

連絡先
 (財)日本自然保護協会  担当・・・中井(普及・広報部)、横山(常務理事)


14日自然 第90号
平成15年2月10日

沖縄県知事
稲嶺 恵一 殿

財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

「新石垣空港整備事業に係わる環境影響評価方法書」
(平成14年12月 沖縄県)に対する意見

(財)日本自然保護協会は、『沖縄県・新石垣空港建設計画』について、石垣島東岸の「白保サンゴ礁」上への建設案が顕在化した1985年から、独自の調査に基づいて「白保サンゴ礁生態系」を評価し、八重山地域・日本および世界的な自然資産として、この生態系を次の世代に継承すべきであると主張してきました。今回、標記事業に関わる環境影響の事前予測評価のための「方法書」が示されましたが、その内容について意見を述べます。

1.本書の使命及び手続き面からみた問題点

1.環境影響評価法の基本的な手続きに反している
まず指摘したいのは、本「方法書」(以下、単に方法書と記す)が 公表された時点において、各種の自然系の調査活動がほぼ終了しているという記述・事実があることは、環境影響評価法における方法書の使命 (意図・意味)並びに基本的な手続きに反していると考えられる点です。

第4章「環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の方法」に示された各調査項目の「調査期間等」によると、多くの調査が既に平成13年度、14年に実施され、方法書の縦覧以前にほとんどが終了しています。方法書は、環境影響評価の実施に先立ち、調査、予測及び評価それぞれの最も適した方法を決定していくためのものですが、今回の進め方の場合、環境影響評価の方法が決定される前に本格調査が実施され、ほぼ終了しているという事態は、この方法書が、環境影響評価法が示している本来の趣旨に反するものといえます。

2.方法決定と調査実施が別々なものとして扱われていることが矛盾を生じさせている
新聞報道によると、新石垣空港環境検討委員会が方法書縦覧期間の1月21日にも開催され、キクガシラコウモリ及びカンムリワシに関する新たな知見が報告されたといいます。また、その会議では、当該地域の生態系をとらえる方法についての検討もなされたとされています。これらも、方法書に記された内容のみならず、本書の存在の位置付けと密接に関わる問題です。公式に方法書が出された後に、その内容に関わる論議が別途行われているということは、方法書が十分な熟度を持っていないことの現れです。これも、調べるべきことを社会的に定めることと実際の調査の実施を別々なものとして取り扱っていることからくる矛盾、ないしは混乱と考えられます。

2.「第4章 環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」の内容上の問題点

1.予測方法の検討と記述が、極めて不充分
科学的な環境影響評価作業において、もっとも重要な要素の一つは「予測方法」です。第4章にあるこの記述をみると、各項目表の中に「予測の基本的な手法」として100文字程度の記述がなされているのみです。また、その内容は、具体性のない一般的な内容にとどまっています。1.の指摘と関連しますが、調査がほぼ終了したこの段階でも予測方法について具体性を欠く記述しかできない状態であることは、現在行われている作業の信頼性を著しく低下させると言えます。このままでは、次の段階の「環境影響評価準備書」の段階で、科学的信頼性のある十分な環境影響予測はなし得ないと考えられます。

2.評価方法の検討がなされておらず、全面的な再検討が必要
評価方法に関しては、「4.3 評価手法の選定」という節が設けられていますが、記述はわずか7行程度で内容は極めて薄いものとなっています。それぞれの調査対象を、どのように、どの程度の重みをつけて評価するかは「環境全体の保全目標」というものに関わってきますが、それは明確に示されておらず、生物・生態系・自然ふれあいといった各項目ごとの保全目標も全く記述されていません。この空港計画が社会問題となってきたのは、対象地域の自然環境が非常に高い質を持っており、それらに対する悪影響が危惧される開発事業であるためです。にもかかわらず、方法書の作成と検討の社会的手続きをこのように単なる手続きにとどめるような形ですませ、慎重かつ適切に評価すべき項目も簡単に済ませてしまうということは、大きな問題といえます。

なお、「4.3」の冒頭、「(1)影響の回避と低減について」が数行記述されていますが、これらは、適切な環境保全目標とそれに基づく評価方法が設定されていなければ、全く意味を持ちえないことです。このような方法書の記述を見た場合、環境影響評価準備書の段階で、科学的・論理的な環境影響評価が示されるとは考えられません。全面的な再検討が必要です。

3.各項目の詳細についての問題点
第4章で示された調査方法における不充分な点を、第3章で示された既存資料・調査結果を踏まえて指摘します。

(1)赤土流出

  •  「土砂による水の濁り」の項目で、赤土流出に関して触れられていますが、赤土の堆積状況(底質調査)を把握し、予測、評価する項目が欠落しています。赤土流出が水生生物に与える影響は、水の濁りによる照度低下だけでなく、堆積による埋没と底質変化による生息基盤の喪失があります。また、一度堆積した赤土の再移動・浮遊の影響も問題です。したがってこの欠落は、この環境影響評価の最大の注目点が赤土流出の影響にあることを考えた場合、重大な欠陥といえます。底質について、化学的酸素要求量の項目で調査し、予測、評価することが書かれていますが、これでは、赤土流出の影響は把握できません。
  •  「土砂による水の濁り」の項目の「予測の基本的な手法」に「降水時において赤土流出防止対策工を施した工事施工区域から排水される濁水濃度を把握し」とありますが、方法書の中には、「赤土流出防止対策工」の具体的な方法が記述されていません。

(2)地下水位

  • これを考察するには、地下水の集水域、地下水の供給源、主な地下水流を含めた「水利地質図」 の作成が不可欠です。そのためには、現在の調査地点では不十分で、特に空港建設予定地の 山側の広い範囲での調査が必要です。
  • 水生生物への影響を考えた場合、現在の沿岸域での塩分濃度の変化、淡水の拡散状況の把握が必要です。

(3)サンゴ礁生態系
単に造礁サンゴや藻類・魚類等の生物分布、種構成を記載するだけではなく、物理環境(波浪、海水流動、拡散、堆積物の移動、地形など)との関係の中で、生息場所の特性を把握することが必要です。その際、サンゴ礁の帯状構造、流入する河川の位置、海岸付近での湧水点、クチ(サンゴ礁礁縁部の切れ目)の位置などとの関係で平面的に把握されるべきです。これらにより、「サンゴ礁生態系のダイナミズム」を正確に把握することが、赤土流入よる影響、地下水流量の変化による影響の予測と評価を可能にするといえます。

(4)コウモリ類

  • 詳細な調査が行われたA,B,C,3つの洞窟の平面的な広がりが、空港建設予定位置との関係で示されていません。また、垂直構造の解明も不可欠ですが、これが不明なままです。
  • 本年1月に発表された、4つ目の洞窟に関する調査方法が欠落しています。
  • 影響予測には、 繁殖行動の詳細を掴み、石垣島の個体群における4つ目の洞窟を含む各洞窟の位置づけをしなければなりませんが、これらは不明のままです。

(5)生物調査
生態系の上位種、希少種に関する調査は計画されていますが、分布の広い普通種を指標種とした調査(典型性)が欠落しています。

(6)植生調査
海岸植生の帯状構造を把握する調査が欠落しています。本計画地は海岸に隣接し、特に予定地北端部は、海岸植生を直接破壊する可能性が高いところです。海岸植生は、全国的に、また沖縄県においても海岸の人工化に伴い喪失を続けているため、十分な調査と影響予測、評価が必要です。

(7)景観調査
空港北端部は、滑走路面と海岸との比高が図面を見る限り20m以上の壁となって現れると思われます。そのため、空港北端部に隣接する海岸およびその沖合を調査地点に加えるべきです。

(8)人と自然とのふれあい調査
カラ岳は一部切除されるといわれていますが、その詳細な計画と、そのことによる影響予測・評価について触れられていません。また、この検討の際には、カラ岳の持つ地域のシンボルとしての機能が考慮されるべきであると考えられます。

3.その他

1.「2.2対象事業の内容」の情報不足という問題点

  1. 対象事業そのものについて、情報不足です。工事方法、予想される工事期間、工事に伴う濁水処理方法、空港の運用方法等についての具体的な記載が方法書にはほとんどありません。これらは、悪しき環境影響を与えることが予想される負荷(インパクト)そのものであり、この負荷のありようが明確に示されていない限り、記述された調査項目や方法、予測方法、評価方法が妥当か否かを判断しきれないといえます。
  2. また対象事業には、空港建設で不足すると思われる土砂の供給場所、及びその運搬経路を加え る必要もあります。これらが、重大な負荷源になる恐れがあるからです。

2.方法書の体裁の問題点
方法書は、本来環境影響評価において、重点を置くべき項目のスコーピングや調査手法の妥当性を国民に問うものであり、周辺地域の自然環境の説明をするものではありません。予測の手法などについてはほとんど説明せず、方法書手続きに先立って実施した調査結果を説明した結果、550ページに及ぶ方法書となったことは、本来の方法書の役割を逸脱しているとしか言いようがありません。

4.結論

以上のことから、このまま準備書が作られるとすれば、科学的・論理的な根拠の乏しい影響予測・影響評価にとどまる可能性が高く、1988年に当協会が意見書を提出した「白保海上案」の際の環境影響評価準備書に比べても、極めて進歩の少ないものとなることが予想されます。

1988年時点の環境影響評価は、閣議決定の制度に基づくものであったのに対し、今回は環境影響評価法に基づくものです。法が整備されたにもかかわらず、このような指摘をしなければならないのは、この方法書が、単なる手続きとして、本来の意図・手順・内容とは異なる形で作成されているためといえ、法とその精神に則った適正な環境影響評価のための方法書とは認められません。これでは、事業者である沖縄県の環境保全に対する姿勢、さらには本事業全体に対する取り組み姿勢が疑われるといえます。

方法書を作成することの意味を再認識し、科学的内容を整え、諸手続きを意味あるものにしていくため、新たな知見も踏まえて方法書を作り直し、再度方法書縦覧を行うことをここに強く求めます。

担当:日本自然保護協会 中井(普及・広報部) 、横山(常務理事)

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