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「事業は『凍結』ではなく『中止』を」 日高横断道路建設事業に対し要望書を提出

2002.12.12
要望・声明

12 月10日、北海道知事は、日高山脈を貫く日高横断道路を凍結する方針を発表しました。士幌高原道路、千歳川放水路につづいて、建設中の日高横断道路の凍結 を発表したことは評価できますが、いったん凍結された士幌高原道路が再開されたこともあるため、日高横断道路は財政的な理由で「凍結」するだけではなく、 自然環境保全の理由から「中止」とすべきであるという要望を、北海道知事に提出しました。
なお、北海道知事の意向を受けて、国土交通大臣が国直轄区間の工事の取扱いを決めるため、国土交通大臣にも国直轄区間の「中止」を求めるとともに、環境 大臣に日高山脈を国立公園または国の自然環境保全地域とするよう求めました(日高山脈は、現在、日高山脈襟裳国定公園の一部となっています)。
日高横断道路は、1984年に北海道日高支庁の静内町と十勝支庁の中札内村から建設がすすめられ、道が工事する34km、国が工事する21kmがまだ残 されています。この区間は、急峻な地形のため地形改変による自然環境への影響も大きく、トンネル区間が多いため、これまでかかった費用490億円に対し て、さらに580億円の支出が必要になります。
今回の道知事の「凍結」の方針は、このような財政的な理由が主ですが、NACS-Jは自然環境保全の重要性から、日高横断道路の「中止」を求めました。


2002年12月11日

北海道知事  堀 達也 殿
国土交通大臣 扇 千景 殿
環境大臣   鈴木俊一 殿

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿

日高横断道路建設事業の「中止」と日高山脈の保全に関する要望

12月10日、北海道知事は財政上の理由から、日高横断道路(主要道道静内-中札内線、一部開発道路)の凍結の方針を決めたと報じられています。当協会は、別紙の理由から、日高横断道路は、「凍結」ではなく「中止」とすべきであると考え、下記のように要望します。

  • 1、北海道知事は、日高横断道路を財政的な理由からだけでなく、自然環境保全の視点から見直し、「凍結」ではなく「中止」とすること。
  • 2、国土交通大臣は、北海道知事の意見を聞き、国の直轄工事区間である、日高横断道路の残り区間を「中止」すること。
  • 3、環境大臣は、日高山脈を国立公園または国の自然環境保全地域として保全することを検討すること。

理由書

1、当協会は1980年、国立公園協会、日本野鳥の会、世界野生生物基金日本委員会、観光資源保護財団、日本鳥類保護連盟とともに、日高山脈の原生的な自然環境 を守るため、日高横断道路の計画廃棄を求める請願を北海道議会に提出した。その後1984年、残念なことに日高横断道路は着工され、日高支庁管内静内町、 十勝支庁管内中札内村の両側から建設が進められた。しかし、この道路は、険しい地形と脆い地質のため道路の崩壊が続き、18年余を経過した現在も、完成に はほど遠い状況にある。この間、国道236号線(天馬街道)の開通などによって、日高支庁浦河町と十勝支庁大樹町を結ぶ交通路がすでに確保され、日高横断 道路を使って静内町と中札内村を結ぶ意義は失われている。

2、日高山脈は、現在は日高山脈襟裳国定公園の一部となっている。しかし環境省の調査でも、日高山脈は日本最大の原生流域面積(47,820ha)を誇り、日本 の原生的自然を代表する地域である。またその生物相は、植物ではヒダカミネヤナギ、ヒダカトリカブト、カムイビランジ、ヒダカゲンゲ、エゾトウウチソウ、 アポイタヌキランなど多数の固有種を初め、極めて希少な隔離分布種や我が国北方域の普通種に富み、動物では、豊かな自然を象徴するヒグマやシマフクロウな ど、生態系ピラミッドの頂点に位置する貴重な種が生息しており、生物多様性の観点から非常に高く評価される。貴重な動植物は、高山や亜高山だけではなく、 低標高の道路予定地にも多数生息している。工事の凍結が発表された中札内側の主稜線トンネル(静中トンネル)の入口周辺は、氷期遺存種であるナキウサギ生 息地の低標高の風穴地として特記されるだけではなく、日高山脈の原生的自然を象徴するものである。

3、日高山脈は、プレートの衝突によって形成された典型的な褶曲山脈であり、各種の堆積岩や変成岩、あるいは深成岩(火成岩の一種)が複雑に交錯し、脆い地質と 急峻な地形に特徴がある。山頂部には、圏谷(カール)を含む氷河地形が発達し、山腹から山麓部にかけては崩壊地や雪崩道が多数認められる。日高山脈特有の 生物相は、これら地質・地形の特徴に支えられており、火山群と比較的緩い地形に特徴づけられる大雪山国立公園や知床国立公園の生物相とは対照的に異なって いる。改正自然公園法では、生物多様性の確保が責務となっており、日高山脈を国立公園または我が国最大の自然環境保全地域として、全国最高レベルの保護地 域にすべきである。

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