カヤネズミとその生息地の保全 ~全国カヤネズミ・ネットワーク
会報『自然保護』No.470(2002年11/12月号)より転載
カヤネズミを知っていますか?
カヤネズミは、里山や河川敷の「カヤ原(オギ・ススキなどの草むら)」に生息している、日本で一番小さなネズミです。体の大きさは人間の大人の親指ほど(6cm)、体重は500円玉1枚分(7~8g)、オレンジ色の毛並みと長いシッポが特徴的な、とても愛らしい姿をしています。草の種子やバッタなどの昆虫を食べ、オギやススキの葉を編んで地上から1~2mの高さにボール状の巣をつくります。昔はどこにでもいたようですが、現在では、京都府で『準絶滅危惧種』、群馬県で『絶滅危惧2類』、福岡県で絶滅危惧種に指定されるまでに減少してしまいました。河川改修やゴルフ場・道路建設などですみかのカヤ原がどんどんつぶされ、全国的に生息地が減ってしまったのが主な原因です。
こんな活動をしています
全国カヤネズミ・ネットワーク(略称:カヤネット)は、この愛らしい里山の代表的な野生生物であるカヤネズミを中心に、河川敷や里山の生きものと生息地を守るための情報交換を行うことを目的として、2001年7月に発足しました。北は宮城・新潟県から南は鹿児島県まで全国38名の会員が、100年後の未来の子どもたちに、美しい日本の自然を残すことを目標に活動を展開しています。
活動内容は、
(1)カヤネズミと生息地の保全を目的とする調査研究活動、(2)里山や河川敷の生き物と生息環境の保全に関する啓蒙活動です。具体的には、NGO設立以前の1999年から調査・公表しているインターネットを利用したカヤネズミの生息分布調査「全国カヤマップ」を主軸に、2002年は福井県中池見湿地でカヤネズミの生態調査、観察会(福井・奈良・大阪)、第13回全国トンボ市民サミット福井県敦賀大会で講演、小学校の総合学習の時間を利用してカヤネズミの授業(福井県福井市)を行いました。
今後の活動としては、新潟県でのカヤネズミ生息北限調査、観察会(京都・福井)なども予定しています。また、会員限定の「全国カヤネズミ・ネットワークメーリングリスト」を通じて会員同士より深い情報交換を行い 、対外的には、ホームページ(http://www.kayanet-japan.com/)の掲示板「保全ゼミ@オンライン」で野生動物全般の保全に関する問題を扱っています。
生息情報を全国から集めています
カヤネット・カヤマップの活動手法にインターネットを選んだのは、カヤネズミの生息情報が少なく、しかも緊急的に対応しなければいけないという状況下で、できるだけ効率的に情報を収集したかったからです。そのために、情報の差し替えがすぐにできて、だれでもが気軽にアクセスできるインターネットはうってつけだと思いました。同じ手法で調査を続けて複数年の情報を蓄積すれば、長期間のモニタリングが可能になり、さらにカヤネットに寄せられた情報は、カヤマップという形で情報提供者にフィードバックされるので、それを各地の保全活動に活用してもらうことができます。
カヤネットの活動を通じて、できるだけ多くの人に、私たちの身近にカヤネズミのような生きものが懸命に生きているということを気づいてもらえたら嬉しいです。非営利で会費はいただいていないので、活動資金は助成金が頼りです。不足分は私のポケットマネーからの持ち出しで経済的には苦しいですが、カヤネズミと美しい日本の自然を守るために、これからも頑張って活動していきたいと思います。
▲カヤネズミの巣(左)、カヤネズミ生息調査風景(右)
(写真撮影・畠佐代子/カヤネット)
事務局・畠佐代子 kayachu@kayanet-japan.com
※スパムメール対策のため@を大文字にしています。
カヤネット http://www.kayanet-japan.com/
カヤ日記 http://blog.goo.ne.jp/kaya_nikki/
解説
「総合的な学習の時間」との連携
今年度から小・中学校で本格的に始まった「総合的な学習の時間」は、地域や学校の特色を生かしながら、環境や福祉、国際理解など従来の教科を越える問題を学ぶための時間として設けられ、小学校では3年生以上から週当たり3時間程度、中学校では2~4時間程度がこのために割り当てられています。具体的な授業内容についての裁量が地域・学校に任されているため、地域の自然や環境に詳しい人材や情報が求められており、カヤネットのように地域のNGOが授業を受け持ったり、アドバイスをするなどして活躍する場面も徐々に増えています。教育現場でのこのような活動に関心がある方は特別決まったルートはありませんので、例えば自分の子どもの学校に直接働きかけたり、市町村の教育担当部署に問い合わせてみるとよいでしょう。
インターネットを使った調査
インターネットを利用する人の割合も、かなり増えています。身近な生きものの生息状況や全国の海岸線の変化についてのアンケートなど、自然保護の場面でもより多くの情報交換・交流が可能になってきています。
「カヤネット」事務局の畠さんは、インターネットによる調査の利点として(1)広範囲にまたがる情報、緊急に集めたい情報を得ることができる、(2)複数年で情報を蓄積して長期のモニタリングが可能、(3)寄せられた情報を公開して各地の保全活動に相互に活用できることを挙げています。
自然保護活動で求められるのは、説得力のある客観的な情報の収集です。「カヤネット」ではできるだけたくさんの情報を集めるために、博物館や都道府県の自然保護関係の部署はもちろん、メーリングリストやインターネットの掲示板などにアンケートメールを送ったり、インターネット以外にも、行政やNGOの機関誌上で情報提供の呼びかけを掲載してもらうなど、初年度には情報告知を徹底して行ったそうです。また、アンケートなどの項目は「データとしてまとめやすく、だれでも回答可能なこと」を念頭において質問項目数は最低限必要なものだけに絞る、さらに募集期間が長い場合には中間報告を出して、より多くの情報を収集するきっかけをつくるなど、工夫を重ねているとのことです。
『自然保護』編集部