小笠原・南島 保護と利用のための調査を実施
会報『自然保護』No.469(2002年9.10月号)より転載
南島とのかかわり
小笠原諸島父島列島の南島は、国立公園特別保護地区にも指定され、沈水カルスト地形を持つ隆起サンゴ礁の島として独特な自然環境を持ち、その自然の厳正な保護が求められるとともに重要な観光スポットにもなっています。現在、観光客による適正な利用を目ざし、エコツーリズムなどのしくみづくりや、自然環境保全のための新たなルールづくりがすすめられています。
南島は過去のヤギの放牧や、近年の観光客の立ち入りにともなう踏圧により、コウライシバが部分的に減少するなどの植生変化、裸地化からおこる土壌侵食、クリノイガのような移入植物の侵入など自然環境への影響が懸念されています。
小笠原村は自然観察路と立ち入り禁止区域の設定、適正入島者数の設定、ガイドつき入島など南島利用の自主ルールを策定し、それに加えて東京都も植生回復事業、モニタリング調査の実施を含む5カ年プランを提案するなど関係機関による保全策が動き出しました。
↑鮫池から見た南島の上陸地点。正面やや左の岩場に観光船が乗りつける。正面の白っぽく見える筋が鞍部に続く自然観察路、その両側の黒っぽく見えるのが侵食部にマルチングした部分です。
移入種の実態が明らかに
NACS-Jも1996年から南島での調査にかかわり、今年も4月20日から約3週間あまり現地に滞在して調査を行ってきました。例年なら梅雨の時期に重なり天気が悪いとのことでしたが、今回は比較的安定しており目的としていた調査をほぼ終えることができました。
上陸してすぐに目の前に現れる植生回復工の様子は痛々しく、かなり印象的でしたが、それよりも、すぐ足元にアカバナルリハコベ、ノゲシ、イヌホオズキなど普段見慣れた帰化植物からなるお花畑ができていたことが衝撃的でした。これらは人が立ち入らない場所でもわずかに見られました。各観光船は観光客に入島時の注意を説明しながら靴の泥をたわしで落とすように指示するなど移入種対策を実行していました。
現在、立ち入りが制限されたルートと利用されている自然観察路周辺の植生の被度や高さを比較し、植生回復の状況や裸地化した場所の土壌侵食状況の調べるほか、利用状況、気象観測調査も行っています。さらにこの夏からはオナガミズナギドリの分布調査も行う予定です。これまでの調査結果からウスベニニガナ、ハナヤスリの仲間など新たな帰化植物や、クマネズミ生息の痕跡が確認されるなど移入種の実態が明らかになりつつあります。
←島に上陸し、近くから見た観察路の様子。人が何度も通ることで植被がはげ、裸地化しています。周辺にはムニンキケマン、ハマゴウなど在来種に混じってアカバナルリハコベ、ノゲシ、ウスベニニガナ、イヌホオズキ、オオアレチノギク、タバコなどの帰化植物が目立ちます。
←小笠原固有種のツルワダン(キク科)。海岸崖地のきわなどにわずかに見られます。ヤギが好むため壊滅的な打撃を受けました。
関係機関の協力が一層必要です
また今回の調査では現地NGO、小笠原ホエールウォッチング協会の方々に協力してもらいましたが、これから地元の人たちの調査への参加をさらにすすめていきたいと考えています。この調査を通じて島の人たちに南島の自然の現況を伝え、その保護と利用にもっと関心を持ってもらいたいと考えているからです。
南島では今、都や小笠原村、林野庁をはじめさまざまな関係機関による事業が展開されつつありますが、その調整は必ずしもうまくいっているとは言えません。今後、南島の自然保護と適正利用を効果的に行うためには、調査だけでなく、地元の人たちを含めた関係機関の相互協力と合意形成が欠かせません。
(朱宮丈晴/保護研究部)