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ありあけ大調査 第5回結果速報

2002.08.19
活動報告

 

「酸素濃度が底生魚類と甲殻類の致死濃度を
下回る地点も観測された」

-第5回ありあけ大調査の速報-

 

有明海漁民市民ネットワーク+日本自然保護協会

1. はじめに

「ありあけ大調査」もそろそろ終盤に入って参りました。第5回調査では、7月20日に行った第4回調査以降、気象・海況ともに安定していたため、この1~2週間の間に底層の貧酸素化が急速に進行したこと、また、諫早湾口から有明海奥部にかけ大規模な赤潮が発生していることが観測されました。

本報告は、第5回調査結果のうち、海水中の酸素濃度、水温、塩分の結果を速報としてまとめたものです。予定していた調査地点と実際に調査を行った位置に若干のずれがあること、また、現時点において一部欠損しているデータがあります。よって、後日、正式に公表するデータでは、若干の修正が入ることと思いますがご了承ください。

 

2.調査方法

第5回調査は、8月3日の午後16:30の満潮に合わせ調査を行うこととした。調査当日は、夕方から海況が悪化したこともあり、福岡県沿岸の地点29と33、島原沖の地点62、65、66、69は8月4日の早朝から正午にかけ調査を行い、地点68は調査を中止した(第1回調査結果速報の図1を参照)。それ以外の地点では予定通り8月3日に調査を行い、15:30~17:30の2時間ですべての作業が終了した。なお、第5回調査では合計25艘の漁船が出船し調査にあたった。

調査地点から持ち帰った海水サンプルは、分析作業を行う8月4日の朝まで冷蔵保存をした。分析作業には22名の市民ボランティアが参加し、佐賀県大浦、長崎県島原、福岡県大和町の3カ所において、海水のろ過処理とウインクラー法による溶存酸素濃度の分析、塩分(導電率換算による)測定等の作業にあたった。

 

3.調査結果

1) 水温
各調査地点における表層と底層(海底から0.5~1m)の水温を図1に示した。なお、調査地点とその番号、各調査地点の担当地域に関しては、第1回調査速報の図1を参照していただきたい。

7月20~21日に行った第4回調査の結果と比較すると、全地点において表層の水温が1~4℃、底層の水温も0.5~3℃程度上昇する傾向が見られる。表層と底層の水温差は、沿岸域や諫早湾奥部において0~2℃と小さいものの、有明海奥部の沖帯や(地点31、32、35)では、3.5~4℃であり、第4回調査時よりも水温差が大きくなる傾向が見られている。

2) 塩分
塩分は、六角川や筑後川、矢部川河口付近の調査地点を除けば、極端に低い値を示している所は見られなかった。諫早湾内では、表層・底層の塩分の差は0.1%以下であり、殆ど塩分成層が発達していない。一方、太良沖から大牟田沖にかけての調査地点では0.2~0.4 %の塩分差がみられている。

3)溶存酸素濃度
表層の酸素濃度は、飽和酸素濃度(海水1リッターに溶けることができる酸素量)を大きく上回る値が有明海奥部の調査地点を中心にみられた。佐賀県の川副沖から諫早湾湾口を結んだラインの西側では、溶存酸素濃度が10mg/L以上(飽和酸素濃度の150%以上)の水塊が広がっていた。特に諫早湾湾口から竹崎まで(地点14、15、16)では、溶存酸素濃度が13.5~14.3mg/L(飽和酸素濃度の208~220%)と極めて高い値が観測された。一方、諫早湾奥の潮受堤防付近では3.3~3.9mg/L(飽和酸素濃度の50~60%)と低い値が観測されている。

 底層の溶存酸素濃度は、諫早湾湾央から佐賀県鹿島沖にかけ、4mg/L以下の水塊が広がっているのが観測された。水産資源保護協会では「内湾漁場の夏季底層において最低限維持しなければならない酸素濃度」を4.3mg/Lと定めていることから、この値を下回る水塊が有明海西岸において広範囲に広がっていることになる。特に諫早湾湾央の地点8は、溶存酸素濃度2.0mg/L(飽和酸素濃度の30%)、潮受堤防付近(地点1、2、3)では溶存酸素濃度が1.8~2.2mg/Lと、今回の調査において最も低い値が観測された。

4.考察

今年は6月下旬の悪天候や7月上旬からの台風の連続接近など、強風・波浪による撹拌が頻繁に生じ、7月下旬に行った第4回調査までは塩分や水温による密度成層の発達や底層の貧酸素化が殆ど見られていなかった。一方、第4回調査以降、比較的に気象・海況が安定していたこともあり、第5回の調査結果では、有明海奥部の沖帯や諫早湾湾口付近において、塩分・水温成層が発達する傾向が見られた。この様な密度成層の形成に伴い、諫早湾から佐賀県太良沖にかけて、底層溶存酸素濃度の急激な低下と貧酸素水塊の発達が進行したと言える。

また表層酸素濃度においても、諫早湾湾口から有明海奥部では、飽和酸素濃度をはるかに上回る値が観測された。これは調査当日、諫早湾湾口から鹿島沖にかけ、赤潮の発生が見られたことと関係している(植物プランクトンは日中、光合成を行い海水中に酸素を放出する)。

夏季の赤潮の場合、底層の貧酸素化と同様に、密度成層の発達に伴う水柱の安定化がその発生条件となる。また、渦鞭毛藻などでは、底層の貧酸素化自体が赤潮発生の原因となっているとの報告もある。いずれにしても、底層の貧酸素化と赤潮の発生は密接に関係した現象と考えられ、本調査結果においても、表層で溶存酸素濃度が過飽和となっている地点と底層の貧酸素化が進行している地点は非常に良く一致している。

また、今回観測された赤潮の規模については、諫早湾湾口付近においては飽和酸素濃度の200%を越える地点も見られていることから、大規模かつ高密度な赤潮となっていたことが推測される。今後、採取した海水サンプルを用いて、赤潮を構成していた植物プランクトンの種組成や密度についても分析を行って行く予定である。

今回観測された貧酸素水塊は、昨年の同時期と比べると未だ酸素濃度は高い状態にある。しかし、わずか1~2週間程度の気象・海況の安定でこのレベルまで底層の貧酸素化が進行していることは、それだけ底泥の有機汚濁が進行していること、潮流による海水撹拌能力が低いことの現れであり、まさに有明海の環境悪化の現状をよく表していると言える。

地元の漁師さんの話によると7月下旬以降、諫早湾口から鹿島沖では、これまで順調に取れていたカニやクツゾコがぱったりと取れなくなった、網にかかったとしても網を引き上げる頃には死んでしまっているという。小長井町から大浦の沿岸にあるアサリ養殖場でも、やはり7月下旬からアサリの大量死が生じているとのことである。

水産資源保護協会の「2000年版 用水基準」によると、底生魚類と甲殻類の致死濃度がそれぞれ2.1mg/Lと3.6mg/L、魚類・甲殻類および貝類の生理的変化を引き起こす臨界濃度がそれぞれ4.2mg/Lと3.6mg/Lとされている。従って今回の調査で観測された貧酸素水塊の発生は、魚介類に影響を与えるには十分なレベルとなっていると考えられ、赤潮の発生と合わせこれら漁業影響
との関係を調べる必要があるだろう。

調査代表者:          村上哲生(名古屋女子大学)
程木義邦(日本自然保護協会)
羽生洋三(有明海漁民・市民ネットワーク事務局)

 

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