「治水対策だけでなく、利水・環境問題に関してもゆとりを持って討論できる場を」
「川辺川ダムを考える住民大集会」ならびに「流域協議会」に対する意見書
平成13年12月18日
熊本県知事 潮谷 義子殿
財団法人 日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿
「川辺川ダムを考える住民大集会」ならびに「流域協議会」に対する意見書
12月9日に行われた「川辺川ダムを考える住民大集会」では、主催者である県は「治水問題で結論が得られれば川辺川ダム建設の問題が解決する」との方針で強引に討論を進行し、環境問題・利水問題・漁業権強制収容等、川辺川ダム建設に関わるその他の問題は殆ど議論されないままに終わりました。ダム建設に係わる問題は治水方法だけではありません。ダム建設反対の流域住民・漁民が求める「清流川辺川・球磨川を守りたい」という要求に答えるのであれば、治水対策だけでなく、河川生態系に与える影響をきちんと評価すべきです。
先日、熊本県知事は「球磨川、川辺川流域から八代海に至る水質などの環境保全、改善するための総合対策が必要」という観点から、「流域協議会」を設置するよう国に求めて行くことを答弁されました。しかし現在の状況で流域協議会が開催されたとしても、このまま漁業権の強制収用が行われダム本体着工が強行されることになれば、球磨川流域の環境に大きな影響を与えるだけでなく、川辺川ダム問題に対する流域住民の合意が得られず、将来に禍根を残すことは避けられません。
よって、熊本県知事に対して、以下の通り、意見を申し述べるものです。
(1)川辺川ダム建設に関わる問題は治水対策だけでは無いことを認識され、利水・環境問題に関しても流域住民・ダム建設に反対する人々の意見を幅広く採り上げ、ゆとりを持って討論できる場を再度、用意すべきである。
前述したように、12月9日に開催された住民大集会では、漁業権や環境面に関わる議論は殆ど切り捨てられる形となった。ダム建設に反対する人々は、治水面や利水面での事業目的が不明瞭である無駄な公共事業というだけの理由で反対をしているのではなく、川辺川に残された自然環境が、流域漁民の財産であると共に国民共有の財産であるという認識に立っている。熊本県知事は、治水対策に限定せず流域住民・ダム建設に反対する人々の意見を幅広く採り上げる場を再度、用意すべきである。
(2)「流域協議会」の設置は、新河川法に基づいた「流域委員会」の設置として国土交通省に求めるべきである。
先日表明された、国土交通省に対する「流域協議会」設置の要望は、私たち自然保護団体や流域漁民の意見を採り入れ、ダム建設に係る環境保全・改善を目的としたものとして一定の評価ができるものである。しかし、法律にもとづかない「流域協議会」では、ダム建設に対する法的拘束力を全く持たないため、ダム本体着工を前提とした、単なる「ガス抜き」となってしまうおそれがある。
もし、真に流域住民の合意や自然保護を踏まえ、川辺川の流域環境全体に配慮した治水対策の検討を行う場とするならば、新河川法に基づいた「流域委員会」を設置し、川辺川ダム建設を一旦白紙に戻した上で、球磨川流域の河川整備計画を策定し直すことを国土交通省に求めるべきである。