新しい「生物多様性国家戦略」の進捗状況 今度は芯のあるものになるか?
みんなで意見を言おう
地球サミットで採択された「生物多様性条約」は、生物多様性保全の考え方をすべての関連部門に組み入れるため「国家戦略」や「行動計画」を策定することを締約国に求めている。日本も1995年に最初の生物多様性国家戦略を発表したが、これは各省庁の施策をホチキスで束ねただけで国家戦略といえないと批判が強かった。
このため環境省は、今年3月から研究者からなる生物多様性国家戦略懇談会を開き、自然公園などの保護地域制度、二次林と里山、野生生物、自然環境基礎調査など、テーマごとに問題点を検討してきた。6月には、日本自然保護協会、日本野鳥の会、日本生態系協会、WWFジャパンに意見が求められた。日本自然保護協会からは私が出席し、自然公園と野生生物、里山と生物多様性、種と生態系のモニタリングについて意見を述べた。懇談会は8月に終了。記録は環境省ホームページで公開されている。
懇談会の議論を基に、10月17日から中央環境審議会による審議が始まった。審議会の自然環境部会と野生生物部会の合同部会に小委員会を設置して案をまとめ、関係閣僚会議での承認を経て決定となる。
会員の皆さんは、意見をいうチャンスがいつなのかが気になるところだろう。メインは2月ごろに予定されるパブリックコメントだが、小委員会はすべて公開、記録も環境省のホームページで公開され、国民からの意見は随時受け入れるそうだ。
生物多様性国家戦略は、法律ではないので強制力は持たないが、関係閣僚会議を経て、締約国会議に提出されるため、日本が世界に向かって発信する?国際的な誓約?といえる。各省協議や閣僚会議を経るので、環境省だけではなくすべての省庁が、生物多様性の保全に対する政策の必要性を確認する過程としても重要だ。
しかし省庁協議を経てまとめる文書は、各省庁の矛盾を抱えた政策を羅列しただけのあたりさわりのないものになりやすい。それをチェックし、生物多様性の保全に役立つ芯のある国家戦略になるかどうかは、NGOや市民の意見がカギとなる。
すべての会議を公開し、いつでも意見を受け入れるという姿勢は、国家戦略に対する環境省の意欲を示すものと高く評価できる。この姿勢に対してNGOや市民も、積極的に意見を述べたいと思う。日本自然保護協会は、昨年国立公園制度検討小委員会が提言した「自然公園と生物多様性」、今年小委員会をつくって検討している「野生生物保護法制度」、アンケート調査などで保全策を検討してきた「里山と生物多様性」などに重点をおき意見を述べてゆく予定だ。会員の皆さんも、積極的に意見を出していただきたい。
(吉田正人・常務理事)