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「産業廃棄物最終処分場建設を中断し、オオタカの継続調査を」

2001.10.25
要望・声明

平成13年10月 25日

山梨県知事
山梨県環境整備事業団理事長 天野 建 殿

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑貞寿

山梨県北巨摩郡明野村のオオタカの保全に関する意見書

当協会は、山梨県環境整備事業団が明野村に建設を予定している明野村クリーンセンター(産業廃棄物最終処分場)予定地周辺に生息するオオタカの保全に関して、6月25日付で貴殿に公開質問状を提出し、調査期間の妥当性、生息地保全の不確実性、情報提供と説明責任について質問いたしました。その後、貴殿より6月28日付で回答をいただきましたが、現在オオタカ専門家会議の意見を聞きながら検討中というものであり、残念ながら県知事であり事業者の長として十分納得の行く回答をいただけませんでした。

そのオオタカ専門家会議は、10月20日に「明野村クリーンセンター建設に伴うオオタカ保護策の提言」を提出し、これを受けて山梨県環境整備事業団は具体的な保全策の検討に入っていることと存じます。

当協会はオオタカ専門家会議の提言、ならびにこれまで事業者が専門家会議に提出したオオタカ繁殖期行動圏等調査業務報告書を詳細に検討の結果、山梨県ならびに山梨県環境整備事業団の考えるオオタカの保全策にはきわめて問題が大きいと考え、以下のとおり意見書を提出いたします。

  1. 山梨県環境整備事業団は、明野クリーンセンター建設計画を中断し、周辺のオオタカの生息調査を次の繁殖期まで継続すべきである。
  2. 山梨県は、県内のオオタカの生息状況とりわけ明野村における生息状況を把握し、明野村クリーンセンター建設によるオオタカ個体群への影響を客観的に評価すべきである。
  3. 山梨県は、レッドデータブック県内版および種の保存条例の策定、全県的な里山保全策の検討を急ぎ、山梨県として里山およびそこに生息生育する生物の保全に対する姿勢を示すべきである。

理由書

1.  産業廃棄物処分場の立地の選定について

廃棄物処分場の立地については、いわゆる迷惑施設であることから、立地に同意する地主や自治体をさがし出してから住民に公表するという方法がとられ、全国各地で生活環境、自然環境に対する問題をひきおこしている。このような問題を回避するためには、事業段階の環境影響評価ではすでに遅く、計画段階から事業の必要性、代替的手法による回避の可能性、複数の立地の比較検討などが必要である。すでに環境省では、一般廃棄物処分場については、このような戦略的アセスメントの研究に入っており、9月にはそのケーススタディーも発表されている。山梨県においても、この問題をケーススタディーとして、事業の必要性、代替的手法による回避の可能性、複数の立地の比較検討などから、本事業を検討し直すべきである。

2.  オオタカの行動圏調査の妥当性について

「第5回オオタカ専門会議の概要(8月31日)」によれば、「これまでの非繁殖期・繁殖期調査でオオタカの行動圏や狩り場、高利用域に関するデータは充分に得られた」、「高利用域、営巣中心域、狩り場などは、おおよその推定ができたので、これ以上の調査は必要ないと考えられる」とされている。

しかし一方で「明野村クリーンセンター建設に伴うオオタカとの共生についての専門会議報告並びにオオタカ保護策への提言(10月20日)」では、平成12年のペアは何らかの人為的な要因によって繁殖を中断した可能性が指摘され、平成13年の繁殖ペアはこれとは異なるものであることが述べられている。

このような流動的な状況の中では、平成13年の繁殖ペアが平成12年の繁殖ペアに完全に入れ替わったのか、それとも平成12年の繁殖地でいずれかのペアが繁殖を再開する可能性があるのか、などの調査を最低でももう一年継続する必要がある。このまま工事を開始すれば、工事による人為的影響によって平成12年の繁殖地での営巣は望めず、客観的な判断材料は失われてしまう。

専門家会議が、重要な参考資料としている、前橋営林局発行の「オオタカの営巣地における森林施業」は、営巣木および過去の営巣木の合計3本以上を含んだエリアを保全することを求めており、その意味でも平成13年のデータだけでなく、平成12年の繁殖地における営巣再開の可能性の確認は非常に重要である。

調査打ち切りは、そもそも環境省が1996年に発表した「猛禽類保護の進め方」が求める最低2営巣期の行動圏調査にもとづき判断するという原則に反し、工事を急ぐ事業者の都合にあわせて調査期間を短縮するものであり、とうてい納得が得られるものではない。

3.  個体保護から個体群保護への転換について

環境省の「猛禽類保護の進め方」は、個体数が少なく、繁殖率が低下している猛禽類にあっては、繁殖可能な個体の保護が重要であることから、繁殖期の行動圏調査にもとづいた営巣中心域の保護を求めている。

「明野村クリーンセンター建設に伴うオオタカとの共生についての専門会議報告並びにオオタカ保護策への提言」は、「平成12年度に特定された個体の営巣環境の保全は、オオタカの共生を成立させるための基本条件であるが、前述のような人為圧による繁殖妨害が防げない状況下では、この個体の行動圏内の存否のほかに、個体群の存否や繁殖場所の確認が重要になる」として、特定個体の保護から個体群保護への転換を打ち出している。

オオタカのように里山に連続した分布をもって生息する猛禽類においては、個体群の存続ならびにそれを可能とする里山環境の保全が種の保存にとって重要であることはいうまでもない。

しかしながら現在の猛禽類の保護の枠組みの中ではまず個体の保護をぎりぎりまで追求すべきであり、仮に個体の保護が図れず代償措置として個体群としての保護を検討する場合には、周辺個体群の十分な把握と生息地の保全策が必要である。

静岡空港の場合は、周辺個体群の調査に3年をかけ、営巣木の伐採の代償として、周辺個体群4ペアの存続を保証するため、県が土地の買い取り、地主との保存契約などの環境保全措置を行っている。明野村の場合は、周辺個体群は全く調査できておらず、周辺の森林所有者に対しても普及啓蒙による協力を求めるというだけであり、個体群保護への転換を図るだけの条件を満たしているとは考えられない。

4.  周辺地域の営巣可能林の調査について

「平成13年度オオタカ繁殖期行動圏等調査業務専門家会議資料・オオタカ生息環境調査(2001年8月)」によれば、平成12年、13年の営巣環境と、その周辺の森林において、オオタカの利用レベル別に、樹齢、樹高、平均胸高直径、平均最大樹冠高、平均枝下高などの回帰分析を行い、有為な傾向がみられないことから、オオタカの利用レベルの違いによる環境要素の差はない、すなわち「生息確認がされている地域と同様の環境を持つ地域が建設予定地周辺尾根に広く分布している」と結論づけている。

しかしこの分析方法には問題が多い。まず回帰分析を行うには、あまりにサンプル数が少なく、そのため分析結果の信頼度が低い。また回帰分析の結果は、生息確認されている地域と他の地域では、環境要素の有為の傾向が見いだせないことを示しているだけであり、周辺地域の森林と環境が同じであることを積極的に支持しているわけではない。ましてや「これらは対象地としたごく一部の評価であるため、実際には周辺にさらに広範囲に広がっている」というのは論理が飛躍した非科学的な議論である。

先に述べたように、周辺地域の森林について、広域的に猛禽類の生息状況を調査し、その存続を可能とする確実な保全対策がとられない限り、周辺地域に営巣可能林が広く分布するので地域個体群の存続がはかれると言うべきではない。

5.  山梨県の希少種保護の姿勢について

山梨県は、高山植物の保護に関して、1985年に「山梨県高山植物の保護に関する条例」を制定するとともに、1989年に日本高山植物保護協会の設立を支援するなど、絶滅のおそれのある野生動植物の保護に関して、日本国内でも最も進んだ取り組みを行ってきた。

しかし、現在20以上の都道府県が県内版レッドデータブックを完成したり、種の保存条例を制定したり、オオタカ保護に関する県内版ガイドラインを出版するなどの取り組みをする中で、山梨県は県内版レッドデータブックの作成にさえ着手しておらず、絶滅のおそれのある野生動植物の保護に関する限り、日本国内で最も遅れた県の一つとなってしまった。

来年2002年は、国の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律が採択されてから10年を迎える。当協会はこれにあわせて、アメリカやカナダの種の保存法の検討を含む野生生物保護法制の検討を行っている。アメリカの種の保存法は、指定種の重要生息地の指定を義務づけ、カナダの種の保存法は、絶滅危惧種は指定から1年以内、危急種は2年以内に回復計画を作成することを義務づけるなど、今や生息地の保全や回復計画の策定が重要な施策となっている。

また最近、環境省が発表した「日本の里地里山の調査・分析について」によれば、かつては身近にいた絶滅危惧種等の生息地の5割以上が里地里山に存在することが明らかとなり、里山の保全が希少種の保存にとって重要な要件であることがわかってきた。

山梨県は、里山を廃棄物処分場などとして失わせるような施策を改め、早急に県内版レッドデータブックの作成、生息地の保護や回復計画をもりこんだ種の保存条例の策定、希少種の生息地としても重要な里山の保全施策の策定に着手し、里山保全や種の保存に対する県の姿勢を示すべきである。

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