絞り込み検索

nacsj

特集「生物多様性への道のり」その6 ブナ林キャンペーン

2001.04.01
解説

生物多様性への足がかり


 

shirakami_top.jpg「ブナ林」というその後の保護の象徴となる森林生態系が調査対象に上がってきたのは、1971(昭46)年の朝日連峰からだ。白神山地に林道建設が持ちあがったのが1982(昭57)年。調査の結果、日本最大のブナ自然林で生態学的にも価値が高いことがわかった。大々的なブナ林保護キャンペーンはこうして始まった。個々の動植物保護だけでは反応が鈍かった国民の間から大きな反響が起こった。ブナ林というまとまりとしての普通の生態系が、日本人のなかに原風景に対する意識を呼びさましたのだ。そして、白神山地をシンボルにした「ブナ林を守ろう」は燎原の火のごとく各地に広がっていった。

この運動に日本自然保護協会は「生物圏保護区」(注)の考え方も導入した。白神を「生物圏保護区」のモデル地区にするよう、1985(昭60)年のブナ・シンポジウムなどで提言し林野庁に繰り返し働きかけた。

1989(平元)年林野庁はついに、それまでの木材生産一本槍の国有林政策を改め、この考え方を採り入れた「森林生態系保護地域」を制度化し、白神山地をその一つとして1990(平2)年に指定。現在、全国で26ヵ所、総面積にして約32万haが指定されている。そして白神は、1993(平4)年に屋久島とともに世界自然遺産にも登録された。

マタギや周辺山村の入会的利用など伝統的な文化が残る白神山地では、「人間とのかかわりにおける自然および自然資源を賢明かつ合理的に利用する」コンサベーションのあり方が今も問われ続けている。

1990(平2)年、森林問題にさらに新しい展開を加えたフィールドが秋田県田沢湖だった。ここに計画されたリゾート開発を止める戦略を模索するなかでイヌワシの存在が浮かび上がったのである。「ブナ林を背負って生きる」この猛禽類は、1989(平元)年にちょうど絶滅危惧種にリストされていたことから、イヌワシという「種」を保存のためにはブナ林生態系全体をその生息環境として保全することが不可欠となる。このケースは「生物多様性」を守るという、90年代以降の新しい自然保護戦略への足がかりとなった。

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する