特集「生物多様性への道のり」その5 まとまりを持った森林を守る
生態系としての保全
コンサベーションの考え方は、国立公園内の景観保護中心できた活動をもっと広範な保護活動へと質的変化をさせていくのに大きな影響をもたらした。「生態系として守る」方向への理論的根拠となっていった。
生態学を基礎に自然を捉え、守る—それは国民の広い理解と認識が育たないとすすまないと活動を通して実感していたことから、日本自然保護協会は1959年(昭34)に日本生態学会と初めて「自然保護に関するシンポジウム」を共催した。
そのなかで、吉良竜夫大阪市立大学教授(当時)はこんなふうに語った。
「原生林野のうち、尾瀬の湿原や日本アルプスの高山帯のように、日本としてはめずらしい自然景観については、保存の必要がわりあい認識されやすい。かえってみのがされがちなのは、国土の大半を占めていた、ごくありふれていた型の原生林である。戦中・戦後の乱伐と、最近の林力増強計画・電源開発・道路開発などの進行によって、この種の原生林はほとんど姿を消そうとしている。このままでゆけば、めずらしい例外的な自然景観は残っても、日本の自然の基盤をなしていた原生林野は、まったく失われてしまうだろう」。
“何を守るか”についての新しい視野を開いた発言だった。「ありふれた原生自然」の価値を積極的に認め、保全していこうという明確な方向が定まったのである。
生態部会も「原生林保護とそのための学術調査研究」を基本方針に決めた。山岳観光道路やスーパー林道の建設、そして天然林の大面積皆伐、拡大造林政策など、林野庁による破壊的な政策の犠牲になったのは、主に高地山岳地帯の落葉広葉樹のブナ原生林があった。