【特集】地球へつなぐ大実験「コリドー」(その6)コリドー計画とNACS-Jのしごと
会報『自然保護』No.453(2001年1/2月号)より転載
NACS-Jは”野生生物の生息および生育環境の保護、自然資源の持続、生物多様性の保全”を、会の目標に掲げている。国土の7割近くを占める森林の保全は、日本の自然保護そしてNACS-Jにとって常に第一のテーマである。
このため、森林保全への取り組みは、時代ごとに変化があるが、途切れることなく続けられてきた。
1.国有林の伐採の見直しを求める
全国で国有林が次々と伐採され、経済的な利益を求めて人工林化がすすんできた。自然林が消失・分断されることで森林生態系の機能が低下し、日本の固有生物種の絶滅、自然の地域的な個性も失われるなど、とても見過ごせない事態が発生した。NACS-Jは各地の会員・研究者から寄せられる情報を契機に、伐採中止を求める意見書を次々に提出。白神、知床、屋久島などの伐採計画の中止を求め、会員と共に全国一斉ブナ林観察会を開いたり原生林保護基金の呼びかけなども行った。伐採による問題点が知られるにつれ、全国的な関心を高めることができた。
2.”まとまりのある森林生態系”を守る制度の確立を求める
国立公園内ですら大規模な伐採が行われてきたのは、日本に森林生態系を守る制度がなかったためで、NACS-Jはユネスコが提唱するMAB(マブ)計画<人間と生物圏計画>の「生物圏保護区」の考え方を取り入れるよう提唱した。白神・知床の伐採中止につれて始まった林野庁の「林業と自然保護に関する検討委員会」にはNACS-J沼田会長自ら委員として参加した。
3.個々の森林生態系の保護区を核に、自然の骨格を整える
この検討委員会答申を反映し、森林生態系保護地域・森林遺伝資源保存林など遺伝子・種・生態系の各レベルの保護を目指した保護区が全国の国有林に誕生した。しかし、従来より大面積ではあるが、島状なので、将来的な生物多様性低下が心配された。1991年の群馬県三国山系の保護活動の開始の際も、離れた保護区を結ぶ必要性が浮き彫りになってきた。
4.『コリドー方式』の実現を求める
東北地方では、生態系保護地域をさらにつなげてほしいとの要望があり、NACS-Jではコリドー方式の実現を目指して働きかけを始めた。行政もNGOや市民の意見を政策に採り入れる方針に転換を始めた。NACS-Jは、奥羽山脈自然樹林帯検討委員会で連続性をさらに高める主張をし、それは、緑の回廊計画検討委員会にもつながった。秩父山地緑の回廊設定委員会にも参加し、また、2000年には緑の回廊のモニタリング手法の研究も委託され、構想・実現・モニタリングの各段階を連帯させた提言を行いつつある。過去に伐採中止を求めて活動をした森が、緑の回廊で全国的に結ばれる日も近づいてきた。日本の森林生態系保護制度は、ようやく市民の願いにおいついてきたといえる。
▲各森林管理局で、「緑の回廊」の設定がすすみつつある。上は、尾瀬を含む森林生態系保護地域を中心に三方に伸びる北関東の回廊計画。
(志村智子・『自然保護』編集部、横山隆一・NACS-J常務理事)
特集『地球へつなぐ大実験「コリドー」』
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