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なお一層具体的な施策と目標の明記を

2000.12.01
活動報告

会報『自然保護』No.452(2000年12月号)より転載


5年ごとの見直しが行われたが

1994年に環境基本計画が策定されてから5年目の昨年、中央環境審議会は内閣総理大臣の諮問を受け、その見直し作業を始めた。今年9月にはその中間とりまとめを発表し、約1カ月間それに対する国民からの意見を募集した。

中間とりまとめでは、今後さらにすすめなければならないものとして、地球温暖化対策について京都議定書の目標を確実に達成するための国内の制度づくり、廃棄物・リサイクル対策実施のための計画づくり、化学物質の生態系への影響評価やその管理をすすめること、生物多様性国家戦略の実効性を確保すること、大気汚染問題・健全な水循環のための施策をすすめることを挙げている。そして見直し後の新しい環境基本計画では、これらに対処するため持続可能な社会を目指した環境政策の戦略的な取り組みを示したとしている。(環境基本計画本文などは環境庁ホームページを参照ください。http://www.eic.or.jp/eanet/

中間とりまとめを見ると、現行計画に比べ施策の方向性については現状を踏まえた詳細な記述となり、実効性のある計画となることを意識して目標を記載するなど努力の跡が垣間見える。しかし、生物多様性保全や自然環境保全に関する項目については具体的な目標が明記されていなかったり、ある分野の経済活動を見直したり抑制することにつながるような施策については一般的な表現に留まるなど、なお一層具体的な施策と目標を記載し、確実に実行していく計画にする必要があると言える。

この中間とりまとめに対してNACS-Jは、森林・河川などの生態系を個別でなく一体的に保全すべきであること、里やまなど二次的自然環境の保全のための農業や税金に関する法・制度の見直し、干潟など湿地の埋め立て防止と湿地の回復及び河口域の保全、計画段階の環境アセスメント及び政策や計画に対する戦略的環境アセスメントの実施などの明記を求める意見を提出した。


 

「新・環境基本計画」中間とりまとめに対するNACS-Jの意見

(番号は中間とりまとめのもの)


■3711 自然環境の保全と自然とのふれあいの推進

総論で、森林・河川・湖沼・農地・都市・海岸等の多様な生態系の適切な保全に触れているが、2000年10月にヨルダンで開催された第2回世界自然保護会議の議題でもある「エコスペース」の思想に基づき、それぞれの生態系を個別に保全するだけではなく、例えば河川流域というつながりを通じて、一体的に保全を図る方向をめざすべきであることを明示すべきである(エコスペースは、耳なれない言葉だが、生物多様性もこの会議のテーマとして出てきたように、21世紀の自然保護のキーワードとなる可能性が強い)。

■3718 二次的自然環境の維持・形成
多様な生物の生息・生育地として、また人々が自然とふれあう場として里やまなど身近な二次的自然環境の保全の重要性が、広く認識されつつある。里やまの自然は農林業と深く結びついて維持されてきた自然環境である。しかし、近年農林業を継続する農家が減少し、里やま自然を維持してきた人間活動が失われて、その自然環境も変貌しつつある。

また、里やま自然の多くは民有地であり、利用されなくなった土地は、都市開発の波にさらされ、宅地や廃棄物処分場などに次々と姿を変えている。相続が発生したときの税金対策のために切り売りされ、開発されるケースも多い。

このような現状に対して、里やま自然をはじめとする二次的自然環境を保全するためには、衰退しつつある農林業を活性化し、農家が継続して農林業を営んでいける農業施策や農業関係の法制度の見直し、土地所有者に対して里やま自然の維持を誘導するような税制度が必要である。さらに、市民参加による保全活動の場となっている里やまの田畑を維持できるような支援策も求められる。このように二次的自然環境保全のための、農業や税金に関する法、制度の見直しについて明記すべきである。


■3725 湿地の保全

沿岸海域の湿地については、「水産資源の適切な維持管理」、「干潟、藻場、サンゴ礁の適正な保全」しか触れられていないが、港湾整備、農地整備等にともなう埋め立て、干拓によって、これ以上の減少を招く事を防止し、むしろ失われた湿地を回復する政策をとることを明言すべきである。また河川については、全く触れられていないが、渡り鳥の渡来地として重要な河川・湖沼はもちろん、豊かな生産性を誇る河口域の保全について明言すべきである。


■3759 環境影響評価等

1999年に環境影響評価法が施行されたが、事業者が自主的に実施するアセスメントの信頼性をより高めるためにその手続きにおいて、十分な情報公開と、市民・NGO・専門家等からの意見を幅広く聞き議論する機会を設けるなど第三者の関与を保障し、よりよく環境保全をはかる努力が必要である。

このように幅広い意見を反映させ、環境保全上の配慮を一層徹底させるためには、事業実施段階だけでなく、計画段階の環境アセスメントを実施すること、さらに地域の総合開発計画や土地利用計画などの政策や計画に対しても環境アセスメントを行ういわゆる「戦略的環境アセスメント」実施の必要性を環境基本計画に明記し、位置づけるべきである。特に国や地方公共団体が取り組む公共事業においては、計画段階の環境アセスメント及び戦略的環境アセスメントに関する具体的なガイドラインを自主的につくり、民間のモデルとなるような先進的な環境アセスメントを実施すべきである。

(開発法子・保護研究部研究担当専門部長)

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