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「自然・人間・文化を一つに考えた管理計画に」
第21回東北自然保護のつどい大会決議~白神2000プラン~

2000.12.01
告知

=月刊『自然保護』No.452(2000年12月号)より転載=


白神山地世界遺産地域に新たな管理計画を入山規制問題に解決の道

吉田正人・NACS-J常務理事

青森で東北の自然保護団体が集う

10月14日から15日、青森県鯵ヶ沢町において第21回「東北自然保護のつどい」が開催された(NACS-J後援)。

「東北自然保護のつどい」は、東北地域の自然保護団体が年に一度集まり、情報交換をしたり、共通の話題について話し合う場として、東北地方の自然保護にとって重要な役割を果たしてきた。とくに、一昨年の山形大会、昨年の秋田大会から今年にかけては、白神山地の保護のあり方を重要課題にすえて議論を続けてきた。そして今年、「大会決議~白神2000プラン」を採択し(下欄)、10年近く、青森・秋田の自然保護団体を二分するかのような形になってしまっていた”入山規制問題”について、新たな解決の道を示した。

人と自然を切り離さずに守る

開会式での沼田眞NACS-J会長からのメッセージ(代読)に続いて、記念講演「21世紀の展望~自然と人間、その現状と行方」では、哲学者の内山節氏が、労働・くらし・文化が一体となって維持されてきた山里の自然について言及し、「20世紀はあらゆるものを統合し画一化した結果自然が荒廃した。21世紀は共有を超えた『総有』関係をむすび、地域の人が地域の自然を守る時代にしよう」と呼びかけた。

シンポジウム「21世紀~白神と東北ブナ林の未来」では、白神文化フォーラムの村田孝嗣氏がコーディネーターとなり、内山節氏のほか4名を加え、パネルディスカッションを行った。

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パネルディスカッションで、赤石川を守る会の吉川隆氏は、「世界遺産に登録されてから、入山規制になり、地元の入会権などが無視された。赤石川下流にすむ住民としては、上流の状態を常に知りたいので自由に入らせてほしい。保安林解除に異議意見書を出したのは、白神山地から閉め出されるためではない。」と主張。

秋田自然保護団体連合の奥村清明氏は、「秋田県側では、自然保護団体も入山規制で一致しており、コアエリアに入らないと生業が成り立たないという人はいない。入山規制は、世界遺産になる前の、森林生態系保護地域の設定のときにできた。見直しはやぶさかではないが、2~3年様子をみて改めて話をしてはどうか」と提案。

東京農工大学の鬼頭秀一氏は、「『人と切り離された自然を守る』という自然観から、『人と自然を切り離さずに守る』という自然保護のあり方に転ずる必要がある。世界遺産の管理計画には策定の手続きの段階から、市民が参加して合意がとれることが必要。パターナリズム(家長制)ではいけない。」と行政の手続きを批判。

NACS-Jの吉田は、「ブナ林保護運動にはブナ帯文化の再評価も含まれていたが、青秋林道反対運動では原生林の価値を強調することで全国の共感を得たという経緯があった。世界遺産登録直後は入山者の急増が予想されたが、現在は入山者数も安定しているし、国際自然保護連合も、『厳正に守る保護地域から、人とのかかわりで維持されてきた自然景観の保護へ』を21世紀の課題としている。」と、市民参加による新たな管理計画づくりを提案した。

地域住民の入会権の復活も

翌日の分科会では、参加者を含めて議論した上で、世界遺産に指定された部分だけではなく白神山地全体を対象とした管理計画を、地域住民や自然保護団体を含めた話し合いによってつくることを求めた大会決議を採択した。決議には、沼田会長のメッセージの中の「人間・自然・文化(MNC)アプローチ」からヒントを得て、「自然・人間・文化を一つに考えた管理計画にすること」というフレーズも入った。

行政主導でつくられた世界遺産地域の管理計画の問題点を共有し、白神山地全体を後世に守り伝える計画をつくるという新たな目標を掲げることで、青森・秋田両県の自然保護団体が合意し、同じ道を歩み出すことができた。東北自然保護のつどいにおいて、3年間にわたって議論を続けてきた東北の自然保護団体、とりわけ山形・秋田・青森の主催団体の皆さんに心から拍手を送りたい。

大会決議-白神2000プラン

白神山地のブナ原生林をいかに守るかは、昭和57年の小岩井大会において現地報告がされてから18年の間、東北の自然保護運動の主要なテーマであり、東北各地の自然保護団体は、地元のブナ林を守る運動を進めながら、その象徴として白神山地の保護運動の展開を見守り続けてきた。

青秋林道建設が撤回されてから、自然環境保全地域の指定、世界遺産登録がなされ、白神山地の保全は確立されたかのように見えるが、来訪者が増えるなか決っして本来の望まれた状況になっているとは言いがたい。

わたしたちは平成10年鶴岡大会、平成11年藤里大会、そして平成12年鰺ケ沢大会と3年間白神山地をどのように守り後世に伝えるべきかを討議してきた。この3年間のシンポジュウムと討議の結果をふまえ、白神山地の保護のあり方について、以下の6項目をここに決議する。

  1. 世界遺産地域を含め白神山地全体を見通した管理計画とし、自然・人間・文化を一つに考えた管理計画にすること。
  2. 世界遺産地域の管理について行政側の組織だけで検討するのではなく、地域住民や自然保護団体など、白神山地の自然に実際に関ってきた人たちを加えた話し合いによって進めること。
  3. 地域住民が持っていた入会権は速やかに回復させ、入会の障害となっている奥赤石林道ゲートは現在の位置から、ダム管理道路と奥赤石林道の分岐点に移設すること。
  4. 世界遺産地域を保護するために、緩衝地域の周辺で伐採され、その後天然更新にゆだねられている地域の植樹等による復元をはかること。
  5. 巡視員制度から、レンジャーを養成しそれに代えるとともに、入山者の多くの目でモニタリングする方法をつくること。
  6. 現状の入山許可申請制度を指導のゆき届くかたちの入山届け出制にし、ビジターセンター等の施設を白神山地と来訪者の交流・学習の場となる拠点とすること。

平成12年10月15日
第21回東北自然保護のつどい
東北自然保護団体連絡会議

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