「鳥獣保護区制度の大幅な見直しを」
環境庁は10月24日から11月17日まで、第9次鳥獣保護事業計画の基準の素案に対して国民からのパブリックコメントを募集した。日本自然保護協会は、パブリックコメントの締め切り日である11月17日、別紙の意見書を提出した。
平成14年からスタートする第9次鳥獣保護事業計画の基準案には、鳥獣保護区制度の見直しや、有害鳥獣駆除の適正化など、昨年の鳥獣保護法改正時に国会で付帯決議がつきながら、未着手であった項目が含まれている。主なものをあげると、次のとおりである。
1. 鳥獣保護区 鳥獣保護区の目的を狩猟制限だけでなく、生物多様性の維持回復、環境教育の場と位置づける。新たに生息地回廊の保護区、身近な鳥獣生息地の保護区の枠組みを設定する。
2. 有害鳥獣駆除 継続的に実施する時は、過大な捕獲とならないよう計画的に実施する。予察駆除(被害を事前に防ぐために鳥獣を駆除すること)を実施する時は、学識経験者の意見を聴取して予察表を作成する。申請の際に捕獲個体の処理方法を明らかにする。
3. 移入鳥獣の駆除 新たに移入鳥獣の駆除を目的とした捕獲許可を認める。国、自治体、民間団体、被害者またはその依頼を受けたものが駆除を実施する。
4. 鳥獣保護管理にあたる人材 被害対策のため、自治体に被害対策員を設置する。傷病鳥獣の保護のため、救護ボランティア制度の導入など民間の積極的な取り組みを推進する。狩猟経験のある鳥獣保護員以外に、都道府県全域で鳥獣の生息調査、普及啓蒙にあたる鳥獣保護員を委嘱する。保護管理の担い手としての狩猟者の育成につとめる。
5. 狩猟の適正化 住民の散策や野外レクリエーションの場として活発に利用されている区域は、危険防止のため銃猟禁止区域の設定に努める。公道、公園、市街地などの銃猟禁止区域の設定を推進する。秩序ある管理された狩猟を実現するため、狩猟団体、森林組合以外の者による猟区の設定を認める。
この基準案の作成にあたっては、環境庁が月1回のペースで、野生動物の専門家、自然保護団体、狩猟団体、農林業団体などからなる野生鳥獣保護管理検討会を開き準備がすすめられた。NACS-Jも委員として加わり、鳥獣保護区の見直し、狩猟や駆除の適正化に対して意見を述べてきた。
残された課題をあげると、全国を原則禁猟とし、管理猟区でのみ狩猟を認める「管理猟区制」への移行については、その芽だしともいえる表現が入ったが、今回は実現しなかった。野生動物の保護管理を狩猟者に依存するのではなく、専門家によって実施すべきだという意見に対しても、十分こたえられるものになってない。
環境庁は、これらのパブリックコメントをふまえて、12月の審議会で第9次鳥獣保護事業計画基準案の答申を得る予定だ。 吉田正人(日本自然保護協会常務理事)
平成12年11月17日
第9次鳥獣保護事業計画の基準の素案に対する意見
財団法人日本自然保護協会
第9次鳥獣保護事業計画の基準の素案に対して、以下のように意見を提出します。
■意見1 該当個所: 第2 鳥獣保護区の設定・・(2ページ1~3行) 該当部分文章:鳥獣保護区の設定に関する中長期的な方針を明記するものとする。
<提出意見> 意見内容:希少鳥獣の繁殖の確認等によって、鳥獣保護区の設定の必要が生じた場合は、鳥獣保護事業計画(5年計画)に設定計画がなかったとしても、緊急に鳥獣保護区を指定できるようにすべきである。
追加修文:なお、希少鳥獣の繁殖の確認等によって、鳥獣保護区を緊急に設定する必要が生じた場合は、中長期計画にかかわらず、優先的に設定するものとする。
■意見2 該当個所: 第4 有害鳥獣の駆除・・(12ページ37行~13ページ6行) 該当部分文章:狩猟鳥獣、カワウ、ダイサギ、コサギ、トビ、ドバト、タイワンシロガシラ、ウソ、オナガ、サル、マングース又はノヤギ以外の鳥獣については、被害等が生じることは稀であり、従来の許可実績もごく僅少であることに鑑み、これらの鳥獣についての有害鳥獣駆除を目的とした捕獲許可は、特に慎重に取り扱うものとする。
<提出意見> 意見内容:狩猟鳥獣であっても、ツキノワグマなど、地域的に絶滅のおそれのある種を有害鳥獣駆除(とくに予察駆除)の対象とすべきではない。第8次鳥獣保護事業計画の改訂によって特定鳥獣保護事業計画による捕獲が認められ、第9次鳥獣保護事業計画によって移入鳥獣駆除のための捕獲が認められようとしている。にもかかわらず、特定鳥獣保護事業計画の対象とすべきクマ・サルや、移入種対策の対象とすべきマングース・ノヤギなどを、有害鳥獣駆除の対象として列記することは、新制度へのすみやかな移行を阻害するものである。
削除修文:個体数が減少し、または従来の許可実績の僅少な鳥獣の有害鳥獣駆除を目的とした捕獲許可は、特に慎重に取り扱うものとする。
■意見3 該当個所: 第4 有害鳥獣の駆除・・(15ページ2~19行) 該当部分文章:捕獲物の処理方法については、申請の際に明らかにするよう指導する。また、捕獲物は、鉛中毒事故等の問題を引き起こすことのないよう、山野に放置することなく、捕獲の目的に照らして適正に処理し、野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育などに利用できる場合は努めてこれを利用するよう指導するものとする。・・・
<提出意見> 意見内容:有害鳥獣駆除による捕獲物(とくにクマの胆、ニホンザルの生体)が、有害鳥獣駆除とは異なる目的のために流通されている現状は、有害鳥獣駆除の透明性、妥当性に疑いをもたれる主な理由となっている。有害鳥獣駆除による捕獲物は、原則としてその場で処分し、流通させるべきではない。野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育などに利用する場合であっても、環境庁・都道府県がその実態をきちんと把握すべきである。また、シカ、クマ、サルに関する記述が混乱しているので整理する。
削除修文:捕獲物は、原則としてその場で処分し、流通させないよう指導する。野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育などに利用する場合は、申請の際に利用方法を明らかにするとともに、捕獲後の利用実態を報告させるよう指導する。
シカについては、鉛中毒事故等を防止するため、山野に放置しないよう指導すること。
クマについては、違法に輸入されたり国内で密猟された個体の流通を防止する観点から、目印標(製品タッグ)の装着により、国内で適法捕獲された個体であることを明確にさせるものとする。クマの胆については、自家消費に限定し、商業利用を行わせないよう指導すること。
サルについては、捕獲した生体を、医学実験やペットとして流通させないよう指導すること。捕獲個体を致死させる場合は、できる限り苦痛を与えない方法によるよう指導するものとする。
■意見4 該当個所: 第8 鳥獣保護事業の実施体制・・(34ページ2~8行) 該当部分文章:なお、保護管理の実施を支えている狩猟者の減少及び高齢化が危惧されるため、各都道府県猟友会等の協力を得て、その実態を詳細に把握するとともに、各都道府県の実情を踏まえ、狩猟者の減少防止等のための対策を検討し、有効な対策を講じるものとする。
<提出意見> 意見内容:有害鳥獣駆除に従事する狩猟者の減少・老齢化は、日本の中山間地における人口の減少・老齢化と連動しており、容易に減少防止を図れるものではない。もとより野生鳥獣の保護管理と趣味のスポーツハンティングを同列に論じることには無理があり、全国的に野生鳥獣による農林業被害が問題となっているこの時期にこそ、野生生物保護管理の専門家による鳥獣保護管理の体制を整えるべきである。
削除修文:なお、狩猟者の減少及び高齢化が危惧されるため、保護管理の担い手となる専門家の育成等の有効な対策を講じるものとする。
■意見5 該当個所: 第9 その他・・(49ページ8行~) 該当部分文章:秩序ある管理された狩猟を実現する観点から、猟区の整備拡大を図るため、設定の認可にあたっては次の点を十分考慮するものとする。
<提出意見> 意見内容:現在、鳥獣保護区、休猟区、銃猟禁止区域以外では、猟期であれば自由に
(意見のみ) 狩猟ができる制度となっているが、昭和37年の法改正以後、農村周辺の都市化の進行、山間地における野外レクリエーションの隆盛など、狩猟をとりまく環境は大きく変化している。通学中の児童やグリーンハウスで作業する農業従事者が、散弾による危険を感じながら通学や農作業をしなければならない現状をみても、将来的に管理された猟区内でのみ狩猟を認める「管理猟区制」へと移行すべきである。
問い合わせ:(財)日本自然保護協会
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