特集「エイリアンスピーシーズ」その4
〜ケーススタディ(3) 意図的導入/奄美大島〜
ハブ退治せず奄美の希少種を脅かすマングース
会報『自然保護』No.450(2000年10月号)より転載
一頭残らず駆除する
マングースの被害が目立つ鹿児島県奄美大島で、環境庁としては全国初の生態系保護を目的とした駆除事業に取り組んでいる。目指すは「一頭残らず駆除」だ。
ハブ対策のため、島に30頭ほどのマングースが放されたのは1979年前後。それから自然繁殖し、今では島の広範囲で見かけられる。環境庁は96年から移入種の駆除、制御方法の確立を目的に島で調査を行っていた。
その結果、とくにマングースが多いのは名瀬市を中心とする4市町村で、近い将来、島全域に広がるとみられ、推定生息数は5000から1万頭、毎年3割ほどの割合で増大している、ということがわかった。
「何万頭あるいは何10万頭いるのか、初めは見当もつきませんでした。全滅を目指せるのか、それともコントロールしかできないのか議論があり、最終的には1万頭という生息数が出たところで、これなら駆除で全滅させる可能性ありと判断しました。一頭残らず撲滅しようということです」。
環境庁野生生物課の植田明浩さんは駆除決定の経緯をこのように話した。
東南アジアから中近東まで分布するジャワマングース。19世紀末頃、ハワイや西インド諸島などでもクマネズミなどを減らすため天敵として持ち込まれた。このため、主に哺乳類、鳥類、爬虫類など、多くの固有種が減ったり絶滅した。頭から尾の先までの長さは約50cm、体重500gほど。
(イラストレーション・浅野文彦)
マングースの胃内容物を分析する調査では、捕獲した187頭からハブはまったく確認されなかった。その代わり、絶滅危惧種のアマミトゲネズミ、アカヒゲ、バーバートカゲ、キノボリトカゲ、準絶滅危惧種のワタセジネズミが確認され、恐れていた結論が出た。ほかの研究者の調査では、マングースの糞から天然記念物のアマミノクロウサギとケナガネズミの体毛が確認されたとの報告がある。
ハブを退治するため人間が持ち込んだ動物が、調べてみたら肝心のハブを捕まえずに、農作物を食い荒らしたり、生存が危うい島の希少動物をさらに危機に追い込んでいるというのは、なんという皮肉だろう。考えてみれば夜行性のハブと昼活動するマングースでは出会う可能性が低いのに、移入当時は “善” と信じた人間の行為が生態系を脅かす結果を招いているのである。
アマミノクロウサギが危ない
本格駆除は今秋からスタートする。年間に数千頭の駆除を目標に、できるだけ早期に終わらせる計画だ。環境庁と鹿児島県から調査を委託された(財)自然環境研究センターの鈴木隆さんにこれまでの捕獲の様子を聞いた。
「同じ場所に罠をかけ続けていると生息密度が低くなって、捕れ方が落ちてきます。それでも、罠をかけ続けなくてはいけません。
というのも、仮に半分を駆除できたとしても残り半分にとっては餌が豊富になり、逆に増えやすい環境を与えることにもなるからです。いったん始めたら、ゼロになるまでとことん捕り続けなくてはいけません」
島という閉じられた自然の中で数万年をかけて独特の生態系をつくり上げてきた奄美の動物たち。夜、山の中を車で走っていると、ライトの中にアマミノクロウサギが警戒する様子もなく佇んでいることがあったと鈴木さんは話す。
外敵を警戒する必要がない生活を長く送ってきた動物の姿を象徴している。マングースに罪はないとしても、人間がした無責任な行為の代償を身を守る術をもたないアマミノクロウサギたちに押しつけることは無論できない。
(島口まさの)
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