熊本・川辺川で育つ尺鮎の謎
この緊急調査をご支援ください
30年以上も前に立てられた、洪水防止と灌漑用水確保を目的とした川辺川ダム計画。付帯工事は次々すすみ本体着工を目前にしています。しかし、ダムができても環境は維持できるという建設省の主張に、川漁師さんたちは自らの体験から疑問が解けないままでいます。
川漁師さんの自慢は、日本一の水質とここで捕れる大鮎。女性の腕ほどにもなる立派な鮎がここでは珍しくなく育つのです。でもそれが何故なのか、科学的に解明されたことはありません。川辺川ダムは古い計画のため、環境アセスメントもなく、川の中のことはほとんど調べられずにきたのです。
尺鮎も育つ川の謎を解くために、日本自然保護協会では緊急の調査計画を立て、調査の総指揮のためにスタッフを送り出しました。川漁師の皆さんは日ごろの腕で鮎を捕まえます。研究者はまず1年かけてアユの生活環境を調査し、アユのデータと重ね合わせます。熊本県内のNACS-J会員や自然観察指導員17人もバックアップに参加します。
この緊急調査に当面必要な資金300万円を募っています。
刺網を使って、アユを捕獲。捕獲はダムの影響を調べるため全部で7地点で行った。(9/9~10)
夜の川辺川に舟を出す
みんなで計測中
計測方法の指示
捕獲したアユを一匹ずつ計測
川辺川の風景
「アユ生息・生育環境比較調査」計画書
[概要]
川辺川ダム計画に関わる自然環境・現況把握緊急調査・その3.
2000年9月1日
(財)日本自然保護協会
A. 調査概要
1.要旨
球磨川支流・川辺川、球磨川本流(球磨川・川辺川合流点上流側:すでに市房ダムのある側)の2地域において、アユの生息状況(主として体格、消化管内容物)・生育環境(主として水質・付着珪藻類)の比較を行い、アユ生育環境としての川辺川の特性を把握し、川辺川の自然環境の理解と保護に資することを目的とする。
2.ねらい
本調査によって、川辺川の水質・一次生産者・アユおよびダム建設との関係に関するデータと考察を資料化し、ダム建設の是非をめぐって議論中の漁業組合員、建設省及び県民に対し、アユ・珪藻からみた川辺川の特性を示すと共に、川辺川の個性とダム建設に関する考察を示す。(川辺川に関する、魚類を取り巻く総合的な自然環境調査は、以前からNACS-Jに対し漁協有志や県内のNACS-J自然観察指導員有志・県内NGOから企画・実施が要望されていた。今回は、その中でも最も重要性・緊急性が高いテーマに絞って計画する。経費は、NACS-J緊急調査費および「NACS-J自然保護寄付」に寄せられた緊急募金で支弁する。)
3.調査項目と調査時期
●アユ魚体調査 ………………サンプル作成・計測2000年9月、資料分析2000年10月
●付着珪藻類・生育環境調査…珪藻類サンプル作成及び水質・水温計測等
2000年9月から月毎に定期実施(1年間)
●地形特性調査 ………………現況把握2000年9、資料分析2000年10月
4.成果のまとめ・公表方法
● 短期間に示せる結果は、簡易報告書とする。一定期間の継続調査が必要なものについては、調査終了後に報告書とし公開する。
● 報告書作成、追加調査計画は、本調査グループ研究者による検討会にて取りまとめる。
● NACS-Jは、必要に応じ、本調査結果に基づくNACS-Jとしての意見を政府・建設省等に提出する。
5.調査実施体制
- 魚体調査担当 ……………NACS-J委託研究者(魚類学)及び漁協組合員有志(サンプル捕獲)
- 水質・珪藻類等調査担当…村上 哲生(名古屋女子大学生活環境学科/水界生態学)
- 地形特性調査担当 ………中井 達郎(NACS-J専門部長/自然地理学)
- 調査作業補助 ……………熊本在住NACS-J自然観察指導員、地域NGO有志
- 資料分析・検討担当………NACS-J協力研究者(3-4名を予定)
- 企画運営 …………………横山 隆一(NACS-J常務理事/動物生態学)
B. 調査グループメンバー連絡先(敬称略)
調査計画・調査実施主担当
*室越 章(技術士・水産部門/魚類学)
ヤンマーディーゼル㈱舶用システム事業部/海洋設備グループ マリンファーム
*村上 哲生(名古屋女子大学家政学部生活環境学科/水界生態学)
*中井 達郎(NACS-J専門部長/自然地理学)
協力研究者(研究協力担当)
*林 公義(横須賀市博物館/魚類学)
*立原 一憲(琉球大学理学部海洋自然科学科/リュウキュウアユ研究者/魚類学)
*甲守 崇(熊本生物研究会副会長/水生生物学)
調査協力・サンプル捕獲提供担当
*川辺川・球磨川を守る漁民有志の会(代表 吉村 勝徳)
調査サポートチーム
*自然観察指導員熊本県連絡会
*清流川辺川を守る県民の会他
現地事務局担当
*つる詳子(NACS-J自然観察指導員/環境庁環境アドバイザー)
総括事務局・運営・広報担当
*横山 隆一(NACS-J常務理事/動物生態学)
C.アユ生息調査計画
1.目的
球磨川水系に生息するアユを支流別(4カ所)に捕獲し、魚体調査を行うことにより、水系毎のアユの成長を比較する。
2.方法
2-1.調査場所の選定
球磨川水系の支流河川の中からアユが生息する河川(場所)を過去の漁獲実績等を地元漁業者から聞き取り調査を行う。また、聞き取り調査により候補となった河川(場所)を観察し調査地点を選定する。
2-2.調査方法
●捕獲方法
捕獲方法は、今の時期に漁業者がアユを捕獲する漁法(投網・刺し網等)で行う。
●調査項目
・魚体調査 :全長、体長、体高、体重及び肥満度、雌雄比(n=50max)
・漁獲量調査:一定時間内に採捕したアユの総重量及び投網回数
●成長比較
・魚体調査
計測した項目を調査地点毎に比較し有意差の検定を行う。
・漁獲調査
採捕重量を時間、投網回数から調査地点毎に比較する。
D.水質・珪藻類等・アユ生育環境比較調査
1.調査の概要と目的
アユの餌となる付着藻類群集の種類組成、現存量、及び一次生産速度、及びそれらに影響すると考えられる環境要因(栄養塩濃度、懸濁物濃度、水温、日照等) を川辺川と既にダム (市房ダム)が運用されている本川で周年調査し、その結果からダムが河川の一次生産者に及ぼす影響を明らかにする。ダムの付着藻類に及ぼす影響としては、シルト・粘土の流出期間の長期化、低水温の深層水の放出、利用可能な栄養塩の減少を想定している。また、アユの消化管内容物については、藻類の遺骸の種類組成を分析する。
2. 調査項目及び方法
川辺川、市房ダム上・下流の表層水(船が使えればダム湛水も)の採水、河床堆積物や付着藻類の採集を行い、資料を分析担当者(名古屋女子大学/村上)に送り分析する。採水と採集は、方法を指示した上で現地作業協力者が行う。
2-1.通年定期調査(1回/月)
[現場に於いて]
●水温(水銀温度計での計測、冷濁水放出の問題等に関しては、データ・ロガーでの連続観測を併用する)
●透視度( 1 m透視度計)
●pH(比色法)
●溶存酸素(DOメーターの購入、借用を検討中) …を測定する。
●その上で表層水を採取し、試水、濾水、ろ過に使用したフィルターを凍結して、分析担当者に送付する。
●付着藻類は、コドラードを使用してれき付着物の一定面積を剥ぎ取り、その定量を、ろ過したフィルターとホルマリンで固定した試料を分析担当者に送付する。
[送付された試料]
●各態栄養塩 (窒素、燐)
●有機物濃度 (懸濁態、溶存態)
●懸濁物濃度…を分析する。
●付着藻類は、付着物の重量、有機物含量、クロロフィル量、藻類の種類組成について分析する。
* 調査機材の準備、及び現場調査の手法研修については、分析担当者が行う。
* 調査は、原則として、月1 回とするが、気象やダム運用に応じて、例えば特別な出水時、渇水時に、現地の判断により、臨時の調査を行うこともある。
2-2.生産速度調査
定期調査地点において、年 4 回程度、付着藻類の生産速度を酸素法で測定する (1 時間ごとに、定点で酸素濃度と水温を24 時間測定)。
*調査は、分析担当者が主となって行い、現地調査協力者がサポートする。
3.調査期間
当面、1年間とする。
E.地形特性調査
1.目的
魚体調査及び珪藻類調査の調査地の地形特性を把握し、アユ生息環境及び珪藻類の生育環境トしての調査地域の特性を分析する。
2.調査方法
地形図及び水中観察による地形把握を行う。
航空写真及び衛星画像(ランドサット・イコノス等)による地形解析を行う。
以上
調査日程概要
●事前調査…2000/9/3(日)-5(火) …………参加/室越、横山(9/3-4)
・アユ魚体調査調査地選定
・魚体計測環境整備
・調査活動概要の公表
・調査活動の現地調査協力者に対する説明会
●現地調査1….2000/9/8(金)-12(火)………参加/室越他計2名、横山(9/8夜-10午後)
・アユサンプリング(主として9/9-10)
・サンプル作成・魚体計測
・消化管内容物分析用サンプル作成・発送
●現地調査2….2000/9/18(月)-20(水)[予定] …参加/村上他計2名、中井
・第1回水質・珪藻等環境調査…珪藻類サンプル作成及び水質・水温計測
・定期実施する水質・水温計測、サンプリング等の現地調査協力者に対する研修会(予定)
・地形現況把握
●現地調査3….[未定] …参加[未定]
皆さまの貴重なお志をお待ちしています。