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三番瀬から東京湾保全へ ~21世紀は、私たちの海辺を取り戻すとき

2000.09.01
活動報告

2000年9月号より転載


三番瀬問題は今

三番瀬の埋め立て計画を検討してきた「計画策定懇談会」(千葉県企業庁が運営)は、昨年12月、十分な議論のないまま休止となった。その後、千葉県企業庁によって101haの埋め立て計画案が策定され、「千葉県環境会議」に報告された。しかし、この計画案は計画策定懇談会の中で指摘された環境保全上、都市計画上の数々の問題点を抱えたままのものであった(『自然保護』444号)。

現在、環境会議の下部組織である環境調整検討委員会で、三番瀬埋め立て事業の必要性・合理性、環境保全上の効果、影響予測の妥当性などについて検討が行われている。

東京湾保全に取り組む市民の連携

一方、これまでの三番瀬埋め立て計画をめぐる内外の議論の過程で改めて明らかになった課題に、三番瀬の環境の回復がある。水質の改善、垂直護岸を改善し市民が海にふれあえる水辺を復元・創出するなど、三番瀬を含む東京湾全体の環境回復と保全の課題として、市民、NPO、NGO、研究者らに強く意識されるようになった。

現在、東京湾には、三番瀬の埋め立て計画以外にも環境への大きな負荷が懸念される開発問題がいくつも見られる。千葉県木更津市の小櫃川河口、盤洲干潟の隣接地にすすめられているホテル建設計画(『自然保護』440号)、建設省による江戸川行徳橋可動堰の改修計画(『自然保護』443号)、東京都による江東区有明の旧貯木場(通称・一六万坪)埋め立て計画などである。

このようなさまざまな問題に対して、市民やNPOが、ネットワークを生かして?東京湾の保全?という共通の視点で問題に取り組んでいこうという動きが活発になってきた。

今年6月10日、東京で開催された「東京湾・ハゼサミット」(NACS-J後援)もそのひとつである。ハゼサミットには、三番瀬や盤洲干潟、江戸川行徳可動堰などに取り組む市民団体をはじめ、東京湾に面する千葉・東京・神奈川の三都県から約30の自然保護団体が集まり、有明旧貯木場の埋め立て計画の問題点を中心に意見交換し、交流を図った。

有明の埋め立て計画は、35haを埋め立て、都市型住宅を配置しようとするもので、合計4本の道路、鉄道建設も合わせて予定されている。しかし、環境庁および東京都のレッドリストに絶滅危惧種として記載されているエドハゼの生息が市民団体の調査によって確認されるなど、市民団体や釣り人、研究者などから事業の必要性への疑問や、東京都が実施した環境アセスメント調査の不備などが指摘されている。

また、7月20日には海辺や水辺環境の保全・研究に取り組んでいる16の市民団体などからなる実行委員会主催の公開セミナー「どうしたら江戸前の海が復元できるか」が東京で、同22日には、東京湾と流域で自然保護や環境保全に取り組んでいる44の協力団体からなる実行委員会主催の三番瀬を守るシンポジウム「海はだれのものか」(NACS-J後援)が千葉で開催された。

そして、9月から来年2月にかけて、自然保護やまちづくりに携わる市民団体からなるSAVE2000実行委員会主催の「東京湾まち育てコンテスト」(NACS-J後援)が予定されている。

東京湾に人々の関心を集めよう

東京湾水際のアクセシビリティ.jpgこれらの活動の中で共通して強調されているのは、東京湾の環境回復をはかるには、東京湾への人々の気づきを呼び覚ますこと、東京湾の自然を大切に思う市民を一人でも多く増やすことが必要だということである。そして、人々と海を結び付け、行政を動かすことができるのは、市民自らによる活動だということである。

戦後、東京湾の埋め立てが急速にすすむにしたがって、海辺に工場や企業用地が張り付き、私たちがアクセスできる海辺は失われていった。それに伴い、東京湾は忘れ去られた存在になりつつあり、それがさらに東京湾への負荷を助長することになっている。

1990年に環境庁が発表した東京湾水域環境懇談会の中間報告『かけがえのない東京湾を次世代に引き継ぐために』の中では、埋め立ての抑止や干潟・浅瀬などの水質浄化機能の重視、市民のアクセスの確保、人工化された海岸線を後背地も含めて改善することなどが提言されている(右図)。国の施策でも、方向はすでに示されている。環境庁をはじめ関係機関は、市民等の知恵と協力を得て、東京湾保全のための予算確保と体制づくりを早急にすすめるべきである。

20世紀が東京湾に陸側の負荷を押しつけてきた時代だとしたら、21世紀は東京湾に私たちの海辺を取り戻し、負荷をかけてきた陸側の暮らし方を見直す時代にしたい。
NACS-Jも引き続き、三番瀬保全をはじめ海辺の保護活動に取り組んでいく。

(開発法子・保護研究部担当部長)

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