第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書(動物)
『海上の森南地区博覧会場が自然環境に与える影響』
~NACS-J保護委員会/第3次海上の森・万博問題小委員会調査報告書~
ムササビに与える影響
この地域で重要な動物は、ムササビである。平成11年の準備書の図1-16-5により、個体数は10個体前後とされている。主要行動圏と計画案の図1-16-19から見ると、南地区会場計画には、かからないように見える。
しかしながら、今回の調査で明らかなように、この地域には複数のムササビが生息していることが推測された。
4月9日に行われた現地調査では、西地区から南地区にいたる道路予定地内にムササビの皮剥ぎ痕が見られ、さらに南地区のパビリオン予定地内にも皮剥ぎ痕が見られた。
南地区は次の点において、ムササビにとっては重要な場所であることが確認された
- アベマキ・ヤマザクラなどの大径木が散在し、付近にはスギの植林もあり巣作りの場所として最適な環境である。海上の森で最も階層構造が発達した場所であり、ムササビの生活空間として最も安定した場所である。
- 2カ所においてスギの皮剥ぎが確認され、付近に巣があると思われる。前記準備書ではこの付近には分布が確認されていない。その結果、この地区の影響は見落とされている。2つの皮剥ぎ跡は離れており、異なる巣が作られていると判断される。
- 付近にはアカマツ林があり、さらに大径木の分布地域は、林の階層構造が発達しているためムササビの餌植物が多い。
- 地形が急峻で谷底には背の高い林が成立している。このためムササビの利用できる空間は広く、海上地域内では最も良好な場所である。
- 下層木にヤブツバキが多く、その花の多さは、ムササビの餌として重要であろう。
- 南地区は傾斜の急な谷が入り組んでおり、各所に崩落が見られる。このことが植生の多様さを増す原因になっていると思われる。
- 環境アセスメントの評価書を見ると、崩落跡地はカワセミの営巣にとっても重要であると思われる。
吉田川流域の生態系への影響
動物以外も含めて考えると、この地域は地形が急峻なため、工事によりダメージを受ける面積が広く、また工事後の対策も困難である。建物等による不透水域が広くなると、流水速度が速くなり、植物の生育に必要な水の確保が困難になる可能性が高い。渓谷に棲む昆虫類は、流速の変化、流れる砂の量の変化により著しく現存量を減じる恐れが高い。このことが、サンコウチョウやサンショウクイの繁殖に影響することは、生態系の原理から当然類推されることである。
尾根の上には、ヤマザクラの大径木が残されており、これはかつての所有境界と思われる。複雑な地形の境を確定する知恵であろう。以上に見られるように、南地区は会場として開発するには不適当な場所である。
【ムササビに関する追加情報】
5月3日に追加調査を行った結果、南地区において、2箇所のムササビ営巣跡(コナラおよびヤマザクラ)を確認した。環境アセスメントでは、ムササビ用の巣箱が使われていないことから、ムササビはいないと判断されているようであるが、南地区には営巣に適した樹木がたくさんあるために、人工巣箱が使われていないだけのようである。早急に追加調査を行い、ムササビの存在を確認すべきである。