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日本でのプリザベーション(やさしくわかる自然保護8)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.432(1998年12月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


日本でのプリザベーション ~原生自然環境保全地域~

前号で日本の国立公園は本来のプリザベーションとはほど遠い存在、といったが、日本の場合のプリザベーションによる保護の例にはどのようなものがあるのだろうか。

わが国においては国土の利用や開発が非常にすすんでいるため、人の活動によって影響を受けていない地域は非常に少ない。それだけにそのような地域は学術的にも、生物の多様性の確保の上でも極めて重要な生態系である。自然保護協会でも早くからこれらの地域の保護の必要性を主張してきた。

環境庁は、日本自然保護協会などの主張を受けて、自然度の高い地域を守るため「自然環境保全法」を制定(1972年)、現在はその法律によって遠音別(おんねべつ)、十勝川源流部、南硫黄島、大井川源流部、屋久島(一部)が「原生自然環境保全地域」に指定されている。

これらの地域内では人為による自然の改変を禁止し、地域外からの各種の影響を排除するとともに、自然災害で損傷があっても原則的には人為を加えず、自然の推移にゆだねることを管理の基本方針としていることから、これなどがプリザベーション的な保護をめざした例といえよう。

しかし、法律的には、一応、プリザベーションによる保護地域があるとはいえ、問題がないわけではない。その問題の一つは、面積があまりに狭いこと。実は自然環境保全法より先に国立公園法(現在は自然公園法)ができていたため、日本の優れた自然のほとんどは先にできた法律によって公園地域として先取りされていた。

前述した5カ所の地域はいずれも国立公園のほんの一部を移行したにすぎない。何しろ現在ある28の国立公園のどこよりも「原生自然環境保全地域」として指定されている地域の合計面積(5631ヘクタール)は狭いのだ。最も広い遠音別岳ですら、隣接する知床国立公園の4.9パーセント、十勝川源流部に至っては、隣接する大雪山国立公園の0.9パーセントの広さしかない。

国は自然環境保全法の基本方針の中で「国土に存在する貴重な植生、野生動物、地形地質などのかけがえのない自然やすぐれた自然は十分な面積にわたって保全を図る」と明記されているのだが、現実はとてもそうなっているとは思えない。

すぐれた自然が、人間の利用を主目的とする自然公園(国立公園の他に国定公園や都道府県立自然公園が含まれる)のままでは、今後の利用のしかたいかんで、自然の劣化が加速するだろう。

そこで、日本自然保護協会は自然公園の中で、特に重要な生態系や生物多様性の観点からみて厳密な保護が必要な区域は、自然公園から自然環境保全地域へ移行するよう、主張している。

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

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