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プリザベーション区域の拡大を目指して(2)(やさしくわかる自然保護10)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.434(1999年3月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


プリザベーション区域の拡大を目指して ~森林生態系保護地域と世界遺産~

日本自然保護協会がめざしたプリザベーションのモデルは、ユネスコが提唱するMAB(人間と生物圏)計画のなかの「生物圏保護区」の考え方であった。

その骨子は、中核部はプリザベーションによる保護地区として人による改変を一切加えないコアエリア、その外側は緩衝帯の役割をもち、自然性を損なわない形で教育やレクリエーションにも利用するバッファーゾーン、さらにそこに外接する部分にはバッファーの機能の維持に留意した資源利用をはかるカルチュラルゾーンの3層に区分して、人間と生物圏の構造を考慮しながらその生態系を保護しようというものである。コアエリアに周囲からの影響が直接かかりにくい構造がプリザベーションをより確実なものにするわけだ。

協会ではこの考えを、白神山地の保護活動の一環として行ったブナ・シンポジウム(85年)や報告書※1で提言しつつ(86年)、林野庁に対しては国有林保護制度に「生物圏保護区」の考え方を盛り込み白神山地のようなところを指定するよう、繰り返し要請した。

この間、白神山地のほかにも、知床など全国各地で自然林保護の運動がまきおこったこともあり、林野庁はついに従来の木材生産中心の国有林施策を見直し、大正4年以来の保護林制度を抜本的に改めたのである(89年)。新制度では、協会の主張した「生物圏保護区」の考え方を取り入れるかたちで「森林生態系保護地域」が設定された。白神山地は90年に森林生態系保護地域の一つとして、コアエリアにあたる保存地区1万139ヘクタール、バッファーゾーンにあたる保全利用地区6832ヘクタールが指定された。なお、現在では全国で26カ所、合計約32万ヘクタールの国有林が森林生態系保護地域に指定されている。

さて、協会が行ったもう一つの提案は、白神山地を屋久島とともに世界遺産に推薦することであった。前出の森林生態系保護地域は林野庁長官の通達に基づく制度であり、法的根拠をもっていないため、森林生態系保護地域であるからといってこの地が永遠に保護されるという保障はない。そこで、このようなところを世界遺産にすることで、保護をより確実なものにしようと考えたのである。

当時、日本政府はまだ世界遺産条約を批准せずにいた。そこで協会は、内閣総理大臣への意見書や国際セミナーの開催によって、政府に対して条約の早期批准を促し、白神山地など国内の重要な自然を自然遺産として登録するよう要請した。その結果、政府は92年に条約を批准、日本は125番目の条約加盟国となった。そして翌93年、白神山地は屋久島とともに世界自然遺産に登録された。

ただし、注意が必要なのは、世界遺産になれば、その地域が理想的なプリザベーションの手法で保護されるわけではないということ。それぞれの地域をどのような方法で保護するかは加盟国の国内法にゆだねられているからだ。さらに、白神山地には、マタギや周辺の山村の入会的な利用など、人間が自然とかかわりながらつくりあげてきた伝統的な山村文化がある。それらを現代の保護制度にどう入れ込むかという重要な課題が残されている。

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

 

<参考資料>
「保護・研究活動レポート ’94」日本自然保護協会,1994
※1 日本自然保護協会『白神山地のブナ林生態系の保全調査報告書』,1986

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