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コンサベーション(やさしくわかる自然保護12)

2000.03.27
解説

月刊『自然保護』No.436(1999年5月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ


コンサベーション ~「賢明な利用」さまざま~

前回は、IUCNによるコンサベーションの定義が「人間とのかかわりにおける自然および自然資源の賢明な利用」であることを書いた。その後、IUCNは『世界保全戦略-持続可能な開発のための生物資源の保全』を発表(1980年)、以来「持続可能な開発」がコンサベーションのキーワードになった。90年代の「新・世界保全戦略」や地球サミットでの「リオ宣言」にもこの語が使われている。

これらを受けて最近ではコンサベーションの定義にも現代風にアレンジされた表現がみられる。その1つ、当協会理事の大沢雅彦氏はコンサベーションを「ある目的のために自然、あるいは再生可能資源が持続しうるように保つこと」としている。

表現は時代とともに変わっても、今日では自然保護=コンサベーションとするのが一般的あることには変わりない。

これ以上人為の影響が及ばないようにして保護したい原生的な自然林があるとしよう。今日ではその地域を確実に保護するには、そこを保全地域に設定するなど、法律の網をかけることとなるが、そのような手段で保護すること自体が、ある意味で人為的な管理であり、その行為はコンサベーションの定義にあてはまる。

一方、里地の雑木林など人間の影響を常に受け続けている生態系は、その内部で永いこと人間が自然との調和を保ちながら維持してきたものである。そのような二次的な自然をその状態で守るには、人手を加えずに守るのではなく、直接手を加えて守ることが必要になる。身近な自然は「人間の適切な管理によって、望ましい状態を維持すること」がコンサベーションというわけだ。

また、スギやヒノキの人工林を質のよい木材生産林として維持するには、文字どおりの「持続可能な自然資源の賢明な利用」のために下刈り・枝打ち・間伐などの管理は欠かせない。

このようにみてくると原生林の保護も、半自然草原や雑木林、さらには人工林の管理もコンサベーションだし、観光やレクリエーションを視野にいれた自然の保護対策もコンサベーションということになる。要は「賢明な利用」の理念に基づいて、保護の対象や目的ごとに管理や利用の方策が異なるだけの話しなのだが、具体的なこととなると、この広い概念が曖昧さにつながるという点で多くの問題が出てくるのも事実。

どのようなところをどのように保護または利用することが「賢明な利用」なのか、の判断が人によって大きく違うからだ。今までに、これが人間側の都合で勝手に拡大解釈されて、どれだけ多くの開発が容認されたり、対立を生み出してきたことか。

例えば、昨今、オーバーユースが問題になっている尾瀬の場合、行政はコンサベーションのために木道の設置・マイカー規制・汚水処理対策などを行っているが、木道1つをとっても、果して尾瀬の湿原のど真ん中に、大勢の人の通行を可能にするような歩道をつくることが、本当に「賢明な利用」といえるのだろうか。あなたはどう思われますか。

(村杉幸子・NACS-J事務局長)

<参考文献>
村杉幸子(1998) 「やさしくわかる自然保護 第11回」『自然保護』435号
ロバート・アレン (1982) 『世界環境保全戦略』日本生産性本部
沼田眞編(1996) 『景相生態学』朝倉書店

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