コンサベーション ~里やまの場合②~
(やさしくわかる自然保護16)
月刊『自然保護』No.440(1999年10月号)に掲載された、村杉事務局長による自然保護に関する基礎知識の解説を転載しました。
自然保護に関する考え方や概念それに用語など、基礎的なデータベースとしてご活用ください。各情報は発表当時のままのため、人名の肩書き等が現在とは異なる場合があります。
やさしくわかる自然保護 もくじ
コンサベーション ~里やまの場合②~
雑木林は、長いこと人間によって利用されてきたことが、結果として林の管理につながった。だが、戦後は化石燃料や化学肥料の急速な普及で林は用途を失い、これに高齢化や後継者不足、都市近郊では地価の上昇のための相続税の重圧が追い打ちをかけて、管理放棄が目立つようになってきた。ゴミの不法投棄も問題になっている。
そればかりでなく雑木林は人間の生活圏に近くて民有地が多いため、宅地造成などの開発でそっくり消えてしまうことも多い。そのような所の"自然保護"はまず開発行為を止めることから始めなければならない(*)。それがうまくいって開発が止まったら次に実際の管理に移る。コナラやクヌギの雑木林は管理をしなくなると、ササが密生したり、常緑樹が成長して、極相林へと遷移がすすんでしまう。
雑木林のままの自然環境を望むのであれば、人が手を加えることが必要になる。ただし下草を刈り過ぎるなどの過剰な管理はかえって自然破壊を招くこともある。雑木林のコンサベーションにはそれぞれの土地の諸条件にあった管理(生態系管理**)が大切なのだ。
一方、雑木林のかなりの部分は、戦後の拡大造林事業でスギやヒノキの植林地に変貌している。これら植林地も極相林ではないので、遷移を途中で止めていることには変わりはない。日本の林業は、林業従事者の高齢化や価格の低迷で衰退の一途をたどり、管理ができなくなった所も多い。人工林も、間伐とか枝打ちなどの手入れをしなくなると遷移がすすむばかりか、場所によっては林内が極端な日照不足となって下草が消滅し、大雨が降った時には土壌が流出して山崩れなどの危険すらある。
さて、林の周囲に広がる水田に目を向けると、ここにも野生生物の減少を招いた人為がある。
例えば水田の宅地やゴルフ場などへの転用、農薬の使用、さらには農業経営の効率化のための圃場(農地)整備、コンクリート3面張りの水路整備等々。これらによってまず影響を受けたのは水生生物や産卵に水を必要とするカエルたち。カエルが減れば、それを餌にしているヘビやサギ類も減少する……というように、ある種の生物の減少は連鎖的に他種の生物にも影響が及ぶ。里やまの自然の衰退は日本の野生生物の存続にとって深刻である。
日本自然保護協会が組織した海上の森・万博問題小委員会の中村俊彦委員は「多様性の高い生物相を含む里やまの自然を守るための基本は、かつての伝統的農業活動に培われたバランスある自然との関係を再現すること」※2と言っている。雑木林や植林地・水田・畦・小川・ため池がセットになった里やまの景観を守ることは日本の伝統文化を守ることでもある。
それには、今ある自然の生態系管理を中心としたコンサベーションのほかに、失われた自然環境を自らの手で復活させる試み(次号参照)も必要だ。
(村杉幸子・NACS-J事務局長)
<参考文献>
※1 『自然保護』 : NO.367,385,389,423 : 日本自然保護協会
※2 中村俊彦 :「里山を守る」とはどのようなことか: 2005年愛知万博構想を検証する: 日本自然保護協会(1997)