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「公開資料」に関する説明

1999.12.07
解説

 

■「公開資料」について

今回公表される資料は、岐阜県揖斐川上流域徳山ダム建設計画に関わる水資源開発公団による猛禽類調査の「公開資料」である。本資料は、1999年9月22 日に締結した「岐阜県揖斐川上流域徳山ダム建設計画に関わる大型猛禽類調査資料(水資源開発公団による生息実態調査結果)の適正公開等に関わる協定書」に基づき、財団法人 日本自然保護協会(以下「NACS-J」)が、水資源開発公団による情報公開のための公開資料の原稿作成に協力し作成された。

原資料は、「徳山ダムワシタカ類に関する資料(平成11年9月)水資源開発公団徳山ダム建設所」であり、生データが記入された解析結果の図面を中心とする「詳細版」と文字による全データ一覧の「基礎データ集」の二分冊に分かれている。このうち、公開の原資料としたのは「詳細版」である。「基礎データ集」は、調査員のフィールドノートに書かれた全てのデータを時系列に出力したデータベースであり、「詳細版」よりさらに大部の文書である。徳山ダム建設計画に関わる猛禽類調査に対するこれまでの経緯から、今回公表資料とすべきは「詳細版」と判断し、基礎データ集については省略した。

原資料に関しては、徳山ダム建設の必要性、大規模開発の是非、希少生物調査が本当になされているかを含む環境上の問題の有無等についての考察のための資料として、以前から水資源開発公団に対し国民各層から情報公開の強い要求が出されていた。しかし、希少猛禽類保護を理由に今日まで公開が見合わされてきたものである。

NACS-Jでは公開資料の作成と同時に、原資料の内容について点検・評価し、「添付文書」として整理している。

■資料公開における公開程度の判断について

  1. 猛禽類にかかわる「生データの公開」は、猛禽類へのさまざまな悪影響を誘引することが予測されるため本来望ましいものではない。その理由は、以下のようにまとめられる。
    • 猛禽類、特に希少な大型猛禽類は常に密猟の危険にさらされている。生データから巣の位置等を直接示す情報を除いたとしても、密猟者にはおよその巣の位置は容易に把握できるため、密猟の危険が増大する。
    • 生データそのものは公開しても複雑で解読が難しく一般には役立ちにくいのが普通である。しかし社会的関心は高いので、生データそのものが安易に第3者に渡りやすい傾向がある。この情報に基づいた第3者の生息地への接近は、猛禽類の個体の生息及び繁殖のための静寂な環境の保持など猛禽類にとって必要な状態を乱すものになりやすい。
    • 悪意の全くない例えば写真撮影等のための接近でも、特に繁殖期の繁殖地への不注意な接近は繁殖放棄を容易に引き起こす。また、このような写真撮影等のための接近は毎年反復されることが多く、特定の繁殖地に対するきわめて長期的な(鳥から見た場合には何世代にも渡る)悪影響の及ぶことが予見される。繁殖成功率の低下が最も大きな問題となっている状況の中では、このような繁殖地が増加することは防がなくてはならない。
    • 開発案件など社会的関心が高いものであればあるほど報道機関等も映像を希望するため、対象となる猛禽類が複数の探索者にさらされることになる。
  2. しかし、徳山ダムのような巨大な開発計画にかかわって開発事業者により行われる猛禽類調査の資料については、徳山ダムの場合には制度上の理由からその点検や審査にあたる行政機関が介在せず、また仮にそれらがあったとしても、関係行政機関による人選と依頼によって組織される関係地域の学識経験者による審査会等の判断に完全にゆだねきってしまうことは、公正さの確保及び国民の知る権利の確保という情報公開の必要性の観点からこれも望ましくない。このような開発計画にかかわって作られる公的資料こそ、行政等の内部のみで処理されるのでなく、広く社会的に検討する必要があり公開されるべきものと考えられる。
  3. この問題の解決には、今回試行しているような「科学的知見に基づいて厳密に生データを評価し、生データそのものではなくその評価結果を広く公開する」に必要な経験と専門性を備え、かつ社会からの質問に十分答えることのできる本来あるべき(専門の)第3者機関の介在が必要なのである。その第3者機関にとって最も必要なのは、社会からの信用であろう。ただしわが国では、猛禽類に関してこのような機能と役割を持った専門機関は、残念ながら存在していない。
  4. このような状況の中、今回、NACS-Jが水資源開発公団の要請により猛禽類調査結果を公開資料化するための協力を行うにあたっては、この徳山ダム建設計画における社会状況と猛禽類の生息状況把握結果の情報公開の必要性の双方を勘案し、「4段階の公開レベルについての区分」を設けた上で次のように公開程度を定めることとした。

■徳山ダム計画に係る猛禽類資料のデータ公開レベル区分(試案)

徳山ダムが計画されている地域を含む揖斐川上流域は、大型猛禽類(イヌワシ、クマタカ)が数多く生息している。今回の資料の公開にあたり、この地域個体群の保全上の見地に基いて、資料の個々の情報について公開による猛禽類保護への悪影響、公開による猛禽類保護の促進の両観点より検討を行った。

猛禽類保護のためには、猛禽類の生息情報の詳細についての公開は、密猟者や探索者の集中等猛禽類の生息への人為的圧力を誘引し好ましくない。しかし、同時に今回のような開発では、特定の機関による内部処理ではなく、社会的に地域の自然環境への影響等が検証されていくことが、猛禽類の地域個体群の生息環境を保全する上からも重要である。こうした問題は全国で起こっているが、猛禽類の生息状況に関する情報公開に関する基準は設けられておらず、関係者がその都度論議し判断しているのが現状である。

今回徳山ダム計画における猛禽類の生息情報について、以下の公開レベル区分を設け、公開資料化の基準とした。

公開レベル 公開資料の基準
公開レベル0
猛禽類保護の観点から「ページそのものの削除」を行う。 ~情報の公開によって、誰でもが容易に猛禽類の営巣地等の重要な地点を特定できる資料。中心となるのは営巣地情報及び営巣地での繁殖行動、及び幼鳥の行動トレース情報。
公開レベル1
 猛禽類保護の観点から本来「ページそのものの削除」を行うべきものであるが、徳山ダムにお ける情報公開の必要性から「繁殖行動記録の部分的削除」にとどめる。 ~情報の公開によって、猛禽類の重要な生息域の特定が比較的容易に可能であるが、調査資料の妥当性や猛禽類と開発地との関係を考察するにあたり、特に重要な資料となり得るもの。中心となるのは、行動圏内部構造の境界線や集中する飛翔トレース情報など。
公開レベル2
猛禽類保護の観点から「ページそのものの削除」を行うことが望ましいものであるが、徳山ダム における情報公開の必要性から原資料のまま公開する。 ~情報の公開によって、猛禽類の特定の行動の把握が可能であるが、調査資料の妥当性や猛禽類と開発地との関係を考察するにあたり、重要な資料となりうるもの。同時に、公開レベル1の情報と関連して論点等を検証する際に必要となる資料。中心となるのは、猛禽類の広範囲の行動トレース及びトレースの集中度がデータとして把握できる情報、及びディスプレイのトレース情報など。
公開レベル3
原資料のまま公開する。 ~データそのものでなく、データを集約し範囲の指示などにまとめられているもの。情報の公開によって、猛禽類の重要な生息域の特定が比較的難しく、公開によって猛禽類の生息を脅かす事態を誘引するおそれが低いと考えられる資料。

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