1999年10月20日
財団法人 日本自然保護協会
保護部長 吉田正人
(1) 環境保全に関する取組状況
当協会は、環境基本計画の策定以後、生物の多様性と自然環境の体系的保全を主な目標として、以下のような活動を行っている。
1)生物の多様性の保全に関する基礎的研究 植物群落レッドデータブックの発行ならびにそれを自然保護に活用するためデータベース化、環境アセスメントに取り入れるべき第1次リスト作りなどの基礎的研究を行っている。また、危機に瀕した干潟のリスト、希少猛禽類の保護が緊急の課題となっている地域のリストの作成、市民参加による河川、湖沼、海岸、里山の調査を実施している。
2)森林生態系の保全 国有林管理経営基本計画、流域別管理経営計画などに対する提言、大規模林道再評価委員会への提言などを通じて、国有林に属する森林生態系保全を図っている。また特定地域として、沖縄県本島北部のやんばるの原生林をテーマにして、米軍演習計画、返還予定地の保全計画、周辺地域におけるエコツーリズムの推進など、生物多様性の高い森林の保全にとりくんできた。
3)河川生態系の保全 上流部では川辺川ダム、徳山ダムに関係する猛禽類問題、下流部では長良川河口堰、利根川河口堰、吉野川第十堰などの河口堰問題を通じて、河川環境のあるべき姿を提言してきた。
4)沿岸海域の保全 石垣島白保サンゴ礁、高知県大手の浜サンゴ群落などのサンゴ礁域、藤前干潟、三番瀬などの干潟・浅瀬の保護活動を通じて、沿岸海域の生態系の保全にとりくんできた。
5)野生生物の保護 イヌワシ・クマタカ・オオタカなどの希少猛禽類をはじめとする野生生物の生息地を守るため、大規模リゾート開発、大規模林道、ダム建設などの問題にとりくみ、猛禽類保護のケーススタディをまとめてきた。
6)自然保護思想の普及啓蒙 自然観察指導員の養成・研修を通じ野外における自然保護教育を推進、環境アセスメント、エコツーリズムなどのセミナーを通じ自然保護思想の普及に努めてきた。
(2) 環境基本計画に対する意見
環境基本計画が掲げる「循環」「共生」「参加」「国際的取り組み」のうち、「循環」に関してはリサイクルの推進など、実行は不十分ながらも国民の理解は進んだと言える。また「参加」、「国際的取り組み」についても、阪神淡路大震災以来、ボランティア・NGOの社会的認知が高まり、実際の参加者は不十分ながらも理解は深められている。
しかしながら、人と自然との「共生」については、言葉だけが上滑りして、実際には大きな自然破壊をした上で、ごく一部分を人工的に復元することで共生という言葉を使っている場合が多い。藤前干潟の埋め立て問題における人工干潟の提案、里山を破壊して行われる愛知万博のテーマ(自然との共生)などはその一例である。
とくに施策の総合的かつ計画的な実施に関しては、ようやくリゾート開発が沈静化したにもかかわらず、景気浮揚策としてとられている公共事業投資によって、まったく整合性のとれない開発計画となっている例が多々見られる。このつけは、多くは里地自然地域に現れており、これに対する施策は環境基本計画策定以前とほとんど変わっていない。
1)環境基本計画のあらゆる基本計画に対する優先 環境基本計画は、他のあらゆる基本計画・国土利用に対する優位を保つべきである。しかしながら実際には、国土利用(森林、河川、海岸、港湾、農業、都市計画等)に関わる基本計画の多くは、今だに環境基本計画との整合性をとらず開発を優先している。今後数年間の間に、すべての基本計画を総点検し、環境基本計画との整合性を図るべきである。
2)「事業実施時の配慮」から「計画的な生息地の確保」へ ~共生概念の転換 社会資本整備等事業実施時の配慮として、多自然型川づくり、エコポート、エコダムなどの自然復元が実施されるようになってきたが、破壊される自然に対して、回復される自然はあまりにも小さく、開発の免罪符となりかねない。今後は国土の保全と利用に関係するすべての省庁および自治体が、計画的な生物の生息地の確保を図るべく、生物多様性地域の保全計画を立案するとともに、事業アセスメントに先立つ、計画的戦略的なアセスメントを実施すべきである。
3)里地自然地域の保全戦略の省庁の壁を超えた立案 里地自然地域の自然環境を保全するため、省庁の壁を超えた保全戦略を立案すべきである。具体的には、生物多様性の観点から重要な里地自然地域の買い上げ(環境庁・建設省)、歴史的文化的視点から重要な里地自然地域の指定(文化庁)、里地自然地域における持続的な農林水産業に対する支援(農水省・林野庁)、里地自然地域の自然環境保全のための税制優遇(大蔵省・国税庁)、里地自然地域の維持のための雇用の拡大(労働省)、里地自然地域を保全する自治体の支援(自治省)などである。
4)地方自治体の環境基本計画の推進 地方自治体が策定する環境基本計画においても、地域振興計画、緑の基本計画等、関連する基本計画が、環境基本計画との整合性をもって策定されるよう地方自治体に強く要望したい。またとくに農山村地域の自治体にあっては、里地自然地域の保全を環境基本計画に必ず盛り込むようお願いしたい。 |