「住宅事業と道路事業の根本的見直しを」
日本野鳥の会、WWF-Jとともに連名の要望書提出
(『週刊金曜日』9月10日号(?)より、同誌編集部の許可を得て転載)
愛知万博の予定地を国営公園に8月31日、日本自然保護協会など3団体の代表らが愛知県庁を訪れ、河内弘明副知事に、愛知万博開催が予定されている瀬戸市「海上の森」の保全を求める要望書を手渡した。
この日、県庁を訪れたのは、岩垂寿喜男・元環境庁長官、黒田長久・日本野鳥の会会長、大内照之・世界自然保護基金会長、奥富清・日本自然保護協会理事長の4人。午前中に愛知万博の予定地と長久手町の県青少年公園を視察、午後、県庁を訪れた。
要望書は、
(1)海上の森に県が計画している新住宅市街地開発事業と道路計画を根本的に見直す、
(2)万博開催にあたっては、海上の森の自然そのものを展示物とする、
(3)海上の森の自然を将来にわたって残すため国営公園とするよう働きかける、
の3点からなっている。
これに対して河内副知事は、新住宅市街地開発事業は、10年以上前から計画しており、今これを変更すれば万博開催にも差し支えるのでこれまで通りすすめる。国営公園にすることは今のところ考えていない、と回答した。
国営公園案を提唱する岩垂氏は、「2千戸6千人という規模の同開発事業を進めれば、自然破壊につながるだけでなく、県民に重い負担が残される。それよりも、国が土地を買い上げる国営公園のほうが県民のためでもある」、と説得したが、副知事はかたくなな姿勢を崩さなかった。
一方、県内の自然保護団体は、岩垂提案を、「海上の森」を残すための名案と評価し、「国営瀬戸海上の森里山公園構想をすすめる連絡会」をたちあげて、国営公園を所管する建設省に要望する予定だ。
すでに県住宅供給公社では、住宅が供給過剰となり、空き家が目立っている。にもかからわずしゃにむに住宅・道路建設をすすめるのは、万博を隠れ蓑にして、公共事業をすすめるためであると考えざるを得ない。21世紀初の万博を開くのであれば、21世紀の子どもたちに何を残すべきかを考えるべきではないだろうか。
愛知県知事 神田真秋 様
財団法人 日本野鳥の会
会 長 黒 田 長 久
財団法人 世界自然保護基金日本委員会
会 長 大 内 照 之
財団法人 日本自然保護協会
会 長 沼 田 眞
拝啓
さて、私ども3団体は、オオタカをはじめとする希少な種を含む多様な生物の生息生育地であると同時に、日本人の心の原風景ともいえる里山の景観を今も保っている、愛知県瀬戸市の海上の森の自然環境の保全に、強い関心を持ってきました。この豊かな自然環境を将来にわたって維持し活用するため、下記のとおり要望いたします。
- 開発面積約140ha、計画人口6,000人という広大な規模の新住宅市街地整備事業と、海上の森の生態系を分断する道路事業は、この地域の自然環境に回復不可能な悪影響を与えることが予想されるので、この計画そのものを根本的に見直していただきたい。
- 海上の森は、里山としての自然環境が良好に残されているため、国際博覧会の開催にあたっては、その生態系を破壊する開発は止め、環境との共生をテーマとした博覧会としてふさわしくなるよう、日本における自然との共生の典型事例として、里山の自然環境そのものを野外展示するよう工夫していただきたい。
- 海上の森の価値ある里山自然を将来にわたり維持し活用する方策を市民とともに検討していただきたい。たとえば、都市公園制度を活用して国がこの土地を買い上げ、国際博覧会を記念する国営公園とすべく準備をすすめるよう、関係機関に要請していただきたい。