ものみ山自然観察会による意見書
■ものみ山自然観察会による意見書
(ものみ山自然観察会の許可をいただき、全文を掲載します。なお、ぜひご注目いただきたい点を、NACS-J編集広報部で着色し、レイアウトを変更させていただいています。)
(財)2005年国際博覧会協会 御中
〔準備書記載内容の訂正要求〕
ものみ山自然観察会の沿革と活動
ものみ山自然観察会は、1990年に結成、博覧会候補地「海上の森」における自然観察会として出発しました。1997年万博が日本に決定してからは、あらためて会員募集し、自然観察から始める自然保護活動を行うグループとして再出発しました。現在の主な活動は、会報「海上の森お昼寝タイムズ」の発行と「海上の森環境診断マップ」の作成(NACS-J日本自然保護協会PNファンド助成)です。したがって、博覧会準備書「資料編」の484ページの当会に関する記述は誤りであり、削除を要求します。なお、現在、立木トラストの庶務は一切担当していません。
*意見及びその理由
当会で「海上の森環境診断マップ」の作成した目的は、都市近郊にある良好な里山自然環境である「海上の森」が人と自然の豊かな触れ合いの場として極めて価値が高いことを、歩き親しんできた市民の目線で調査し表現するものである。専門知識を持たない市民が地域の自然を守ろうとするには様々な困難が伴う。博覧会会場予定地のアセスメント「人と自然の豊かな触れ合い」項目に意見することは、環境影響評価法を先取りして行われる住民参加手法としての機会を提供するものとなる。しがって、今回の準備書への意見は、「人と自然の豊かな触れ合い」項目を主として述べた。
(意見書を補う資料として報告書や図を添付し文中でも引用した)
(1)景観資源、生物との触れ合いへの影響
万博事業における景観についての影響の総括は、『「上の山団地」以外は眺めの変化も回避低減できると』しながら、『地域整備事業の直接改変等に対しては、「海上集落一帯」「海上砂防池上流部一帯」「吉田川一帯」といった利用者や地域住民に親しまれ、好まれている景観は失われ、都市的景観に変化することは避けがたいと予測されている。』としている。
万博事業以前に土地改変が地域整備事業によって行われるのであるから、万博での直接改変域が少ないことは、影響なしとはならない。三事業の連携を実質的なものとするなら、現在の計画では、万博と地域整備事業への影響は運命共同体であり、どちらの影響が多いとか、少ないとかいうことには意味がない。
また、都市公園などでは出会えない生物との触れ合いは、候補地のような里山環境にはたいへん重要な価値となっている。しかし、景観資源の影響と同じで、万博での直接改変は行われないものの、地域整備事業で多大な影響が明らかになっていることを考えると、万博開催時すでに、多様な生物との出会いは失われていることになる。
環境診断マップのデータでは、どこで、どういう野鳥や動物に出会ったかは大きな喜びとして記憶されていることが分かる。容易に聞くことができるウグイス・オオルリ・サンショウクイ・ヤブサメ・ホトトギスなどの声は、自然との触れ合いにとっての欠かせないレギュラー・メンバーある。吉田川改変による大きなダメージは、著しく触れ合いの質を低下させることになる。また、ウグイスやホオジロの声を聞くことができる頻度の調査もなされるべきである。そうすれば、触れ合いで失われるものがもっと明らかになってくるだろう。
景観の変化とオオルリ・サンコウチョウ・カワセミなどの野鳥、ムササビ・キツネ・テンなどの哺乳類、ホタルなどが失われる影響を考えると、今回の開発計画が里山環境を破壊することで、いかに多くの生物の命を損なうかが見えてくる。
(2)触れ合い活動の実態
来訪者の数については、どの程度の人数が許容できる範囲なのかは、身近な自然を守る合意事項として自然保護団体ばかりでなく、行政や訪れる一般の市民とともに考え、取り組むべき今後の課題である。施設整備のない会場候補地と公園として整備された愛知青少年公園などと比べ、利用者数が多いか少ないかの比較は意味がない。触れ合いは量で計るより、質が問われなければならない。
1.立ち寄り先について、「9割以上が会場候補地を唯一の目的地としており、会場候補地が触れ合い活動の目的地として十分なものであると利用者に認識されていることを示唆している」。
2.再来意向について、「9割超が(また)訪れたいとしており、利用者の再来意向は、極めて高いものであるといえる」。
3.興味対象は「森や草花などの緑」「池や川などの水辺」が上位を占めた。
1.~3.の結果が意味することは興味深く、重要である。ここから浮かび上がるのは、樹木や草花と身近に接しられ、池や川など豊富な水辺のある歩きやすい道のある自然をただ歩き、見て回ることだけでも満たされる都市住民の姿である。昨今の人が自然との触れ合いに求めている特徴は、施設がなくてもそれが不満とはなり得ないことである。むしろ、施設があれば失われてしまうものを会場候補地は有しているということである。
しかし、ハイキングにのみ重点がおかれたアンケート結果は、候補地の持つ懐の深くて広い環境特性を拾い上げるには不十分である。
博覧会協会の委託コンサルタント、プレック研究所によるヒアリング調査では、当会が提出した文書のみが掲載されている。コンサルが当方にヒアリングし、候補地の自然との触れ合いの多様さをどう把握したかは一切記されていない。
身近な自然の触れ合いは、自然環境が多様であるのに対応して様々な活動を許容することが評価されてきている。それは、自然に負荷を与えない形で長い時間を経て、人が自然と触れ合ってきたことに由来するものである。地元の人へのヒアリングは海上町地域の持つ歴史や自然との関わりが分かり興味深いが、地域整備事業を伴う万博事業によってその歴史は途絶えることになってしまう。
(3)身近な里山自然としての価値評価
(1)の調査結果や利用の多いルートの環境特性調査を総合し、今回の準備書には、実施計画書との重要な違いが出ている。実施計画書では会場候補地は立地ポテンシャルを有する場として価値を下げられているのに対して、今回準備書では「会場候補地は、名古屋近郊に残された数少ない身近な自然との触れ合い活動の場として位置づけられるものと考えられる。」とされ「広域的に見た触れ合い活動としてのポテンシャル」と位置づけられた。しかも、「会場候補地一帯は、丘陵地から山地にかけての樹林の連続性が濃密に保たれている点で重要性を有するものと評価される。」とある。
「海上の森」の自然特性
A. 生物の多様性が、地質の特性と豊かな水系の取り合わせを背景にして育まれていること。
B. 自然と文化の歴史が、景観的に、森林、水辺、水田、神社、古窯、古墳跡など様々な環境としてモザイク状に広がっていること。
C. しかも、その環境が人工的な施設によって断絶しておらず、集落の人たちによって長く使われてきた小道が、それぞれを縦横に結んでいて適度な入り込みを誘導していること。
準備書においては、候補地の自然環境の特性は”歩く、見る”にあるとされている。候補地が”歩く、見る”だけにしか、特性がないとするなら、それは誤った狭い認識であるといわなければいけない。海上の森は”歩く、見る”だけでも満たされる自然環境であると同時に、さまざまな触れ合いを許容し提供してくれることを、具体的に調査し評価すべきである。
○なぜ”歩く、見る”だけでも満たされるのか。
上記(A)(B)の価値を(C)が保証しているといえるのではないだろうか。
準備書829頁に「会場候補地の景観区分」が示されている。ユニット間の特性も面積、標高、起伏量などで表されているものの、結果を読み込んだ評価がされていない。候補地540haを11区分した図を見ると、これだけでも複雑な景観の変化があることが分かる。当候補地のみの図ではなく、同じ方法で、愛知青少年公園などと比較すれば、より明確に候補地の特性が分かるのではないだろうか。肝心なのは、これだけのユニットがあり同時に、人が歩くことのできる道を有していることが、海上の森と人の触れ合いを可能にしていることである。例えば、
○”歩く、見る”だけではない自然との触れ合い
* 環境診断マップ参照
視覚的な景観のみでなく、五感を通して感じるプラス評価、マイナス評価を地図上に表した。
森の中では、季節、天候、どこを歩くか、どんな動植物と出会えたかによって、無数ともいえる肯定的な場所が上げられる。それを、”ほとんど、いつも”という条件をつけて表した。全域に渡って広がっているのが分かる。どの部分は不要とか、ここなら改変できるとかは到底選べない連続生を持っている。”つながりあって構成される全体の価値”である。五感を使った触れ合いをしている様子を一度に全て表現できないのは残念である。五感を満足させる触れ合いの質的豊かさこそ、海上の森の魅力となっている。
* 海上の森ビジターズアンケート調査
海上の森を訪れた人たちに、訪問回数、目的、理由、印象などを10項目を、対面式でアンケートしたものである。
準備書のコンサルによるような人海戦術はできなかったため、対象人数は少ないが、はっきりと一つの方向が見られる。ハイキングに訪れた人たちには、現在の候補地を都市化してほしいと望む人がいないことである。このように、都市化を望んでいない人々に万博のテーマ「自然との共生」をどのように説明できるのか疑問である。
* 海上の森アンケート(全域40カ所地点)
地図上に示されたポイントを歩いて、ポイント地点の印象を点数化する。
あいにくの雨で、調査人数も14人と少なかった。歩き慣れていない人がポイント場所2カ所を見つけられなかったりもしたが、全体には興味深い結果となった。雨の日ならではのよさもあり、次回、晴の日に行えれば比較して面白さも出てくる可能性がある。
全体的に高得点であり、均一化していない。他の地域とも比較すると、楽しみながらできる身近な自然の触れ合い調査として有効である。
* 「子どもと遊ぼう会」の提供による報告書参照
海上の森で行われた親子が参加した観察会の様子。多様な触れ合いの一例である。
身近な自然が子どもと大人への優れた自然教育力を持っていることがわかる。水先案内の大人によって、身近な自然の中で生き生きと遊ぶ子どもの姿が浮かび上がる。付き添いの親の方も共に楽しんでいる様子は、これからのライフスタイルや教育の方向性さえ示しているようだ。
* 海上の森定点写真撮影
海上の森の現在の景観を記録
候補地の開けた場所、見晴らしの効く場所で定点撮影を開始したのは、開発計画によってどのような変化があり、何が失われてしまうのかを記録するためである。これにより、現在の森を歩くといかに自然景観が連続しているかが分かる。準備書でも認めている通りであるが、「好まれている景観は失われる」のである。
(4)12の森構想、森林体感地区、入場者数は里山自然にふさわしいか
以上述べてきたことからも、海上の森を訪れる人の期待は、現在、満たされているのである。それを、たとえ12の’森’構想といっても、所詮は手の込んだテーマパークにしか過ぎない。「地球の魔術師たちの自然美術館」(?)滑稽で虚しい言葉が並んでいて、いちいち言及している余裕がないので一括して評するなら、「12の森構想」は「偽善の森構想」である。
「偽善の森構想」は、この万博計画の全体を貫く思想となっている。「車椅子からも」と優しげに言いながら、水平回廊という自然環境に大きなインパクトを与える計画しかり。
バーチャルリアリティをフルに活用するのは、都市でやるべきことであり、自然に関心のない人に偽物の自然を見せても何の自然教育にもならない。人間の持つ想像力とはいかに’他’の立場に立つことができるかどうかであろう。この万博計画は車椅子の人の立場に立つふり、マイノリティの人の立場に立つふり、自然に無関心な人の立場に立つふり、自然の側の立場に立つふりをしているだけだ。万博計画に怒りと悲観を覚えるのはまさに、すべては見事な偽善であることに由来しているのである。
2500万人の入場者数はどう考えても無理があり、行列とラッシュの中での開催は、自然と人に多大な負荷を与える。入場者数を見ただけでも、自然との共生は成立しない。
森林体感地区は、A・B・Cゾーンを後退させた後の計画である。2500万人を入れるため保全地域をあいまいにし、森全体を使用する案ではないのか。なぜ、A・B・Cゾーンを強調しなくなったのかを説明すべきである。
(5)影響への保全措置 回避・低減はなされるのか
景観資源、ハイキングルートへの影響を低減するためとして図られる保全措置は、
・付け替え道路の活用
・施設デザインの検討
・多自然型工法による河川整備・水田形態を残した市民農園等の整備
である。
実行可能な範囲内での低減と代償の中身は以上のようなものにすぎない。現状をすっかり改変した後に子ども騙しのような保全措置では、低減は図られない。したがって、代償措置の効果確認のため、事後調査を実施することとするとあるが、「効果」とは何を指しているのかまったく不明である。
(6)結論
この準備書からは、生物多様性の著しい劣化と地域住民に親しまれ好まれている景観が失われることが明らかにされている。
都市近郊にあって多様な生き物と触れ合える場は年々減少の一途を辿っている。道路や住宅の計画と抱き合わせで実施される万博計画は、場所選定、入場者数の枠に縛られ、奇妙なものとなっている。自然愛好家から見ればちゃちな人工改変自然となり、自然にそれほど興味のない人からは物足りないものとしてどちらかも敬遠されかねない。
「人間が多様な自然・生物と共に生きることができるよう」と制定された環境基本計画の主旨、6月から施行される環境影響評価法の「環境悪化を未然に防ぐ」ためという主旨を実質的なものとするためには、計画の根本的見直しが必要である。
準備書とはかなり内容の異なった評価書が出されると博覧会協会から説明されているが、そうであるなら、再度意見書を求め、21世紀のアセスメント、自然との共性という看板にふさわしい手続きと計画になることを要望する。
参考資料:
(1)環境診断マップ
(2)海上の森ビジターズアンケート調査
(3)海上の森アンケート調査(全域40カ所地点)
(4)「子どもと遊ぼう会」の報告書
(5)海上の森定点写真撮影
愛知県知事 様
1)改変によって受ける生物への影響と保全措置
【名古屋瀬戸道路について】
● シデコブシ
<影響>
?計画路線2号トンネルの掘削による赤津川流域のシデコブシ生育地(湿地)の地下水位変化
?造成等の地形改変による、屋戸川・寺山川流域のシデコブシ生育地(湿地)へ地下水の涵養状況の変化
とあり、?については、「施工後は、保全対策の効果により、地下水位の回復が期待できるが一時的な地下水位低下により、シデコブシや貧栄養湿地の植物の生育立地を支える地下水文環境が変化し、それらの生育に影響を与える可能性があると推定される。」とある。
<保全措置>
防水型トンネル構造、湧水を防ぐ施工方法の採用。寺山川流域の雨水集水量の減少を補う構造の採用。
●コタチツボスミレ
<影響>
道路の橋脚の直下に位置することになり、構造物による光量の低下、斜面上部の改変に伴う土砂流下等様々な影響が予測される。(「プレック研究所」業務委託報告書より)
<保全措置>
遺伝子型は個体群A・Bがあるが、隣接しているため個体群Aは移植はせず、個体群Bの立地環境改善を図る。
●スミレサイシン
<影響>
現生育地は橋梁や下流で建設予定地の洪水調整池の影響のため、100%が消失する。
<保全措置>
遺伝子分析で同一個体であることが判明したため一部を実験的に移植する。
●ゲンジボタル
<影響>
・北海上川:一部が付け替えられ、左岸流域の大半の森林は改変される。
・海上川:北海上川との合流点である四ツ沢上流部に調整池ができ、ダムの出現により、水辺環境が変化する。2本の幹線道路が河川上流部を横断するため、夜間照度が変化する。海上集落上流部は造成に伴い河川の付け替えが行われるため、水環境が大きく変化する。
・吉田川:河川の中間地点である広久手第1池を中心に調整池が設けられるため、ダムの建設により水辺環境が変化する。さらに、2本の幹線道路が河川上部を横断するこにより夜間照度が変化する。現在、この地域はゲンジボタルの最も良好な生息環境である。
<保全措置>
道路証明の道路外への漏洩を抑える。橋脚と水辺との離隔の確保。
【新住宅市街地開発事業について】
●イトトリゲモ・サガミトリゲモ
<影響> 新住の造成域に生育しており、50%以上が消失する。
<保全措置> 移植する。
●ウスバケシダ
<影響> 調整池の」湛水域にかかる。
<保全措置> 移植する。
●スミレサイシン
<影響> 調整池により冠水する可能性がある。
<保全措置> 移植する。
●サクラバハンノキ
<影響> 群落が10.3%消失する。
<保全措置> 新たな立地環境の確保。
●夏鳥
<影響>
夏鳥である確認個体の消失率は、アオゲラ50%、オオルリ25%、サンコウチョウ50%、サンショウクイ19%、ヤブサメ23%など。合計25%である。
<保全措置> 森林管理計画の立案や推進体制。
意見
準備書中で、影響が大きいと記載されているものを前述のごとく引用したが、影響について、客観的に極めて大きな影響があることが指摘されているにも関わらず、保全措置では確実な効果が保証されていない。これでは、回避・低減にならない。
なお、エビラフジについてはスミレサイシンの隣接地に生育しており、スミレサイシンと同等の影響が考えられるが、影響について触れられていない。
キツネ・テンは、生息が困難とされているのにも関わらず、保全措置が図られていないのは問題である。
植物について遺伝子判定が用いられているが、生物多様性を低下させないための措置としては無意味ではないのか。この手法がアセスメントに定着することは、今後に悪影響を残すことになりかねない。
ゲンジボタル・シデコブシ・夏鳥が受ける影響の大きさは生態系にとって重要な水辺環境が大きく改変されることを示しており、当開発事業の自然環境に対する取り返しの付かない影響の大きさを明らかにしている。ここに、記載した以外の生物種にも影響は複合的に及ぶことになるが、個々の調査結果がばらばらに並記されているだけで、総合した評価・判断がなされていないため、生態系の項目がずさんなままに終わっており、極めて残念である。これでは、環境影響評価法の先取りとはいえない。
2)人と自然の触れ合いへの影響と保全措置
【名古屋瀬戸道路、新住宅市街地開発事業について】
触れ合い活動の実態
1. 来訪者の数については、どの程度の人数が許容できる範囲なのかは、身近な自然を守る合意事項として自然保護団体ばかりでなく、行政や訪れる一般の市民とともに考え、取り組むべき今後の課題である。施設整備のない会場候補地と公園として整備された愛知青少年公園などと比べ、利用者数が多いか少ないかの比較は意味がない。触れ合いは量で計るより、質が問われなければならない。 実施計画書では会場候補地は立地ポテンシャルを有する場として価値を下げられているのに対して、今回の準備書では、
- 立ち寄り先について、「9割以上が会場候補地を唯一の目的地としており、会場候補地が触れ合い活動の目的地として十分なものであると利用者に認識されていることを示唆している」。
- 再来意向について、「9割超が(また)訪れたいとしており、利用者の再来意向は、極めて高いものであるといえる」。
- 興味対象は「森や草花などの緑」「池や川などの水辺」が上位を占めた。
「会場候補地は、名古屋近郊に残された数少ない身近な自然との触れ合い活動の場として位置づけられるものと考えられる。」とされ「広域的に見た触れ合い活動としてのポテンシャル」と位置づけられている。
2. 『「上の山団地」以外は眺めの変化も回避低減できると』しながら、『地域整備事業の直接改変等に対しては、「海上集落一帯」「海上砂防池上流部一帯」「吉田川一帯」といった利用者や地域住民に親しまれ、好まれている景観は失われ、都市的景観に変化することは避けがたいと予測されている。』としている。
3. 利用率の高いルートとして選ばれた10ルート中8ルートが、道路・新住事業により影響を受けることになる。景観の上だけからも大きい改変影響があることが明らかになっている。
以上の結果が意味することは、樹木や草花と身近に接しられ、池や川など豊富な水辺のある歩きやすい道のある自然をただ歩き、見て回ることだけでも満たされる都市住民の姿である。むしろ、会場候補地に施設を作り、樹木や草花のある自然環境を減少させるのは、人と自然の触れ合いを質的に低下させることになる。
ハイキングにのみ重点がおかれた調査でも、候補地の持つ懐の深くて広い環境特性を示している。
【ものみ山自然観察会、他の調査】
私たちは、候補地の自然との触れ合いの評価を明らかにするために、多様な触れ合い項目として、以下のような調査を実施した。
● 環境診断マップ
視覚的な景観のみでなく、五感通して感じるプラス評価、マイナス評価を地図上に表した。●海上の森ビジターズアンケート調査
海上の森を訪れた人たちに、訪問回数、目的、理由、印象などを10項目を、対面式でアンケートしたものである。●海上の森アンケート(全域40カ所地点)
地図上に示されたポイントを歩いて、ポイント地点の印象を点数化する。●「子どもと遊ぼう会」が実施した観察会
海上の森で行われた親子が参加した観察会の様子● 海上の森定点写真撮影
海上の森の現在の景観を記録
これらの調査の結果、
- プラス評価は全域に広がっており、分断されたり、部分的に改変されたりすると、価値の低下が著しい。
- 野鳥などの生き物に出会うことで喜びを感じる人が多い。生物種の減少は、候補地のよさが失われる。
- 子どもたちは、人工物がなく、安心して遊べる自然に満足している。
- 樹林の中、開けた見通しのよい場所がともに評価されている。
- 海上町里は、景観・生物・子どもの遊び・安らぎ感すべてにおいて、評価が高い。
- 舗装道路、車の入り込みが敬遠されている。
- 今後も現在の状態のままがよいとする人たちが多い。
<保全措置>
景観資源、ハイキングルートへの影響を低減するためとして図られる準備書での保全措置は、
* 付け替え道路の活用
* 施設デザインの検討
* 多自然型工法による河川整備
* 水田形態を残した市民農園等の整備
であり、実行可能な範囲内での低減と代償を行う。
意見
海上の森には、森林、水辺、水田、古窯など様々な自然と文化の歴史があり、多くの生き物が生息している。それらを集落の人たちが昔から使ってきた山の小道が結んでおり、現在訪れる人たちにとって格好の自然との触れ合いを提供している。
したがって、準備書での保全措置では、一般の人たちが望んでいる自然との触れ合いを達成しないばかりか阻害することになる。
【都市計画案について】
市街地計画
市街地調整区域変更計画書によれば、瀬戸市におけるスプロールの防止のため、緑の少ない市街地の社寺境内に残された緑地を保全するとされている。もっともな施策であり、積極的な保全を期待する。しかし、同じ計画書で博覧会予定地のAゾーンに当たる地域がそっくり市街地調整区域から市街地区域へ編入されることになっているのは、矛盾している。現在極めて良好な自然環境を住宅地域として都市化することは、自然環境の劣化となり、市街地の社寺林を保全することが代償にはなり得ない。このような安易な誤った自然保全が続けば、メダカがレッドリストに上がるような身近な自然の危機は、ますます深刻な事態となるだろう。再考を要望する。
参考資料:
(1)環境診断マップ
(2)海上の森ビジターズアンケート調査
(3)海上の森アンケート調査(全域40カ所地点)
(4)「子どもと遊ぼう会」の報告書
(5)海上の森定点写真撮影