“時のアセス”は社会状況の変化を考慮し 第三者機関による実施を
時のアセスに関して北海道知事に要請書を提出
=会報『自然保護』No.432(1998年12月号)より転載=
北海道大雪国立公園内で建設が予定されている、「道々士幌然別湖線(通称・士幌高原道路)。道庁の「時のアセス」の対象事業となっていて、長年膠着状態にある事業として、時代の変化を踏まえて、事業の遂行について再検討がなされています。
1998年10月中旬にはその中間報告が発表になる予定ですが、現在のところ、その中身は自然環境に配慮した内容とはなっていないと推測されます。そこでNACS-Jでは、この中間発表に先駆けて、下記の内容の緊急要請書を提出しました。
「時のアセス」自体は、運用方法しだいでは評価しうるシステムと考えられますが、その実施形式や内容にはまだ問題点があります。近日中に発表になると思われる中間発表と合わせ、この運用方法にも注目していきたいと思います。
NACS-J編集広報部・広報担当主任 森本言也
平成10年10月16日
北海道知事 堀 達也 殿
(財)日本自然保護協会
保護部長 吉田正人
大雪山国立公園内「道々士幌然別湖線」
時のアセスメントに関する要請書
北海道大雪山国立公園内における「道々士幌然別湖線」建設計画に関して、日本自然保護協会は昭和63年8月6日付、平成4年10月19日付、および平成7年6月12日付の3回にわたって意見書を提出し、国立公園内の生物多様性の保全の観点から、事業の見直しを求めてきました。
昨年、北海道は全国に先駆けて「時のアセスメント」制度を実施し、道々士幌然別湖線をその対象事業の一つとして取りあげました。現在再評価のための検討が進められ、この10月には中間報告、来年3月には最終報告が出される予定と聞いております。
これまで一度決定して動き出した公共事業は、事業が長期に亘って社会的経済的な状況が変化しても、途中で見直しがされることはほとんどなく止まらないという問題点が指摘されてきました。その点、この制度を導入した道の姿勢は評価できるものです。しかし、この制度の評価は、長期化した公共事業の是非を、社会状況の変化を踏まえながら、費用対効果、環境の両面から判断したかどうかにかかっています。
日本自然保護協会は、道々士幌然別湖線に関する「時のアセスメント」の評価システムには大きな問題点があると考えています。なぜなら、現在検討されている再評価事項は、事業の費用対効果、交通量など、いずれも道路建設を前提としたものであり、自然環境保全の面から見た社会状況の変化についての検討が全く抜け落ちているからです。
自然環境保全の面から見た社会状況は、事業が計画された昭和40年代初頭とは全く変わっています。昭和48年には、それまでの国立公園内の観光道路建設による自然破壊への反省から、自然環境保全審議会自然公園部会において林部会長談話が出されました。この談話は、現在に至るまで国立公園内の道路建設にかかわる保護のあり方の指針とされています。また平成元年には北海道自然環境保全指針が出され、道内の自然環境保全の基本的な方向性が示されました。その中で本計画地は「周辺を含めて厳正な保全を図り、徒歩利用に限定すべき場所」とされました。さらに平成4年の生物多様性条約の批准や平成5年の環境基本法の制定によって、「良好な自然環境を保全し将来にわたって継承していくのは行政・事業者・国民など、全ての立場にとっての責務である」という共通認識が作られつつあります。
このような社会状況の変化にも拘わらず、「時のアセスメント」において、自然環境保全に関する市民の要望を踏まえた事業の再評価が行われている様子は全く見られず、道路の経済的・社会的な効果のみによる再評価が行われようとしています。地元の要望や地域振興などの理由だけで、国立公園に指定された地域が安易に開発されることは認められません。
これまでの「時のアセスメント」の過程を見る限り、対象施策を所管し自ら事業者である建設部自身が当の事業に対して評価・判断を下すというシステム自体に無理があったと判断せざるを得ません。「時のアセスメント」の評価システムを早急に見直し、公正な判断ができる組織に任せるべきです。
仮に公平な判断、再評価がなされずに事業推進の結論が出された場合には、道々士幌然別湖線は、「時のアセスメント」の名前を騙り事業を再び推進に導いた事例として、後々まで批判のそしりを免れないでしょう。北海道知事は、全国に先駆けた「時のアセスメント」の実施にあたって、是非とも賢明な再評価をしていただきたいと思います。
NACS-Jは以下の点について強く要請します。
- 「時のアセスメント」の評価システムを公正なものにするため、対象事業を所管する部局が再評価を行うのではなく、第三者機関が行うようにすること。
- 「時のアセスメント」の本来の目的に立ち戻り、自然環境保全の面から見た社会状況の変化を十分考慮に入れた再評価を実施すること。
- 検討の経過や判断の根拠は、結論を出す前に、一般にわかる形で公開すること。