「審議会の答申は国民の期待を大きく裏切るもの」
1998年7月13日
(財)日本自然保護協会
保護部長 吉田正人
本日(7月13日)開催された、第14回吉野川第十堰建設事業審議委員会において、吉野川第十堰建設事業の推進を承認するという答申がなされた。
当協会は、今年3月27日、吉野川第十堰建設事業審議委員会委員長ならびに建設大臣にあてて、「吉野川第十堰の可動堰化が環境に与える影響を最新の科学的知見に基づいて再調査すること、審議委員会において自然保護団体等の意見を聴取すべきこと」などを、骨子とする意見書を提出した。また6月4日には、「第13回吉野川第十堰建設事業審議委員会において、最終結論を出すことは避け、第14回以降の審議委員会において、日本自然保護協会、徳島県自然保護協会、日本野鳥の会およびその推薦する研究者に対して、可動堰化が環境に与える影響に関する意見聴取の機会を作ること」を求めた申し入れを行った。
にもかかわらず、本日の審議委員会においてこのような答申がなされたことは、広く地域住民の意見を聴取した上で、利根川や長良川など既設の可動堰が環境に与えた影響に関する科学的事実に基づいて、最終的な判断が下されることを望む国民の期待を大きく裏切るものである。
ダム事業審議委員会は、長良川河口堰建設問題などがきっかけとなって、ダム・堰など大型公共事業への批判が高まったことを受け、1995年に建設省河川局長の通達「ダム等事業に係る事業評価方策の試行」によって設置されたもので、地域住民の意見を聞き、事業の見直しを検討した上で答申することを目的としている。しかし審議委員会委員は、都道府県知事が推薦し、地方建設局長が委嘱するため、その中立性に疑問が投げかけられていた。学識経験委員の声を押さえて、行政関係委員を中心に事業推進の結論が出されたことは、公共事業の見直しという事業審議委員会の設置目的を無にするものであり、審議委員会を設置した建設省の責任が問われる。
このような問題のある審議委員会で出された答申を受けて、建設省がどのような判断を下すかが、今後全国の注目を浴びることになるであろう。当協会としては、吉野川第十堰建設問題を、長良川河口堰以来の重大な河川問題と位置づけ、可動堰の環境に与える影響や、現第十堰の環境面からの再評価など、建設省に対して科学的事実にもとづいた議論と事業の再検討を求めて行く予定である。