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資料集その7 宿泊施設のガイドライン

1994.08.01
解説
1.地域の自然、文化を表現するのにふさわしい立地条件を選ぶ
地域の自然、文化は単独で存在しているのでなく、その歴史、環境、地域の人々の生活と共にあるものであり、それを表現するのにふさわしい場所がある。それは、決して歓楽地や観光地の喧噪、騒音とともにある場所ではない。

2.地域の自然、文化に悪影響を与えない規模とする
エコツーリズムの対象として選ばれる場所は大都会や歓楽地ではない。自然が豊かに残されており、伝統と文化が現在も育まれている場所が対象地となりうる。エコツーリズムの実施によって、それまで存在しなかったような大きい影響を地域に与える宿泊施設は、いくら工夫を加えたとしても、長い目でみればその地域の自然文化に悪影響を与える事はまちがいない。その結果、地域が守り続けようとする大切なものを失うことになるであろう。生態系を考慮に入れて考えてみても、規模の大きなものはエコツーリズムとは相容れないものである。

3.地域の人々が中心になって、管理、運営、経営する
エコツーリズムは参加する人々のためであるとともに、地域のためでもあるから、地域の自立に役立つものがよい。それには、地域の人々が自分達の地域でいつまでも生活できなくてはならない。宿泊施設の経営が大手資本や外部の人間に押さえられていては、いくら地域のためにと考えても、地域の自然や文化の切り売りになってしまうことが多い。それを防ぐには、地域の人々が自ら管理、運営、経営し、エコツーリスト達と話し、考え、地域の自然や文化を大切にしていかなければならない。

4.施設、建物そのものが環境、エネルギーに配慮する
エコツーリズムでは、自然や文化の体験と同様に、宿泊もツアー・プログラムの一つになるべきである。いくら環境や自然保護を考慮したツアーであっても、宿泊施設が配慮されていなければ不十分である。エコツアーの大半の時間を過ごす宿泊施設は周辺環境にやさしいか、自然のエネルギーを利用しているか、水や資源を無駄使いしていないか、動物達に悪影響はないかなど、環境やエネルギーを考える場となるように、建物が環境やエネルギーに十二分に配慮すべきである。

5.宿泊者に過度な快適性を提供しない
宿泊施設は清潔で快適なものがよいが、大都会や観光地の旅館やホテルのような快適性や、水資源、エネルギーの多大な使用による過剰なサービスは必要ない。そのために起こる地域の環境破壊は、地域の自然や文化そのものを壊しかねない。それを防ぐためには、快適性が少々犠牲になってもやむをえない。エコツーリズムの宿泊施設は、あくまでエコツーリズムを実現するためのものであり、他の旅行形態のサービスとは一線を画すべきである。

次に宿泊施設の地域貢献について考えると、

6.地域の自然と文化を解説する。または地域の自然文化に関するガイド、展示、施設、ガイドブックを紹介する
エコツーリズムの宿泊施設の大きな特徴は、宿泊機能だけに終わらず地域のインタープリテーションの中心になることである。そのためには、宿泊施設自らその役割を自覚し、積極的にその地域の特徴を解説することである。もし、それが不可能なときは、適任者を紹介するとともに、展示施設やガイドブックで内容を十分紹介できるようにしておくことが必要である。

7.地域の経済・文化のネットワークに入る
いくら良い宿泊施設でも、地域の中で孤立し、特殊なものであっては困る。地域のつながりを大切にし、地域経済や文化に貢献し、地域の理解の上で運営されるべきである。宿泊施設がその地域のインタープリテーションの中心になるためには、その地域における経済・文化のネットワークに入り、常に地域から新しい情報を得るとともに、エコツーリズムを通じて得た情報を地域にフィードバックするシステムも持つことが望ましい。

8.地域の研究、保護、教育施設との情報交流を行う
宿泊施設がエコツーリズムを通して得た情報や、エコツーリストがもたらす情報は、地域にとっても大切である。エコツーリストが必要とする情報は宿泊施設でのみ集められるものではないから、常に窓口を広くし、地域と外部を結び付けるように努力するとともに地域に存在する研究、保護、教育施設と常に情報交流し、地域の自立のための研究、保護、教育施設をもりたてていかなければならない。

9.地域の産物を中心とした食事、販売物を提供する
地域を知るには地域のものを食べる事が一番であり、地域の農業経済にも効果的なので、宿泊施設の食事はなるべく地域の食料で賄うべきである。また、特産品の販売にも十分に力を入れ、エコツーリズムのもたらす経済的効果が宿泊施設だけに終わらないようにすべきである。エコツーリズムが地域に理解され、継続していくには、なんらかの地域経済への貢献、特に農業経済の維持強化に貢献することが必要である。また、特産品や土産品の販売や開発にあたっては、消費者の立場も理解できる宿泊施設が、積極的に協力しなければならない。

10.地域の環境教育に貢献する
宿泊施設は宿泊者のためだけに終わらないようにしなければならない。エコツーリズムが成り立つ地域の自然や文化は、その地域の人々の生活や歴史がなくては成り立たなかったものである。その自然や文化によってエコツーリズムがあり、宿泊施設が成り立っている事を認識し、たえず地域の環境に貢献できる事を考える必要がある。特に地域のあり方や、環境や自然との良いつきあい方に関しては、情報を早く入手できるエコツーリズムの宿泊施設が、積極的に地域の人々に伝えなければならない。そのためには、地域の環境教育の行事や企画を行ったり手助けすることが大切である。

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