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イヌワシ行動圏調査・中間報告まとまる

1993.12.01
活動報告


「リゾート計画地を含む、広いイヌワシの行動範囲」

イヌワシ行動圏調査・中間報告まとまる

=月刊『自然保護』No.366(1992年12月号)より転載=


 

NACS-Jと日本イヌワシ研究会は、1990年12月から3年間の計画で実施している秋田駒ケ岳山麓のイヌワシ調査の第一回中間報告をまとめ発表準備をすすめている。中間報告では「行動圏および採餌行動」と、「繁殖状況」の調査結果をまとめた。

1991年に記録できた飛翔ルートを、繁殖期と非繁殖期、1991年に巣立った幼鳥の行動範囲にわけ、それぞれの最外郭を囲んだのが左頁の図だ。繁殖期(1~6月)は、雌は巣に留まっているので、雄が主として営巣地を中心に比較的狭い範囲を利用した行動圏が示されている。一方、非繁殖期(7月~12月)は雌雄をあわせた行動圏が示されている。この時期には田沢湖上空や町の上なども通過しており、それらを含め、1万ヘクタールを超える広い範囲を利用している。

また、左の図には記載していないが、行動圏の中でイヌワシが利用しているほぼ一定のルートもわかった。ルートは、高く舞い上がるため上昇気流を得る地点、滑空を始める高度のある地点、狩りをする場所などを結ぶもので、イヌワシの゛通勤路″ともいえる。この行動圏のうち、イヌワシのために保護の手だてがなされている場所は、営巣地を中心とした鳥獣保護区だけである。繁殖期に狩りが観察された地域とほぼ重なるが、全体の行動圏からみるとごく一部でしかない。隣接する国立公園や県立自然公園をあわせても行動範囲にはとても及ばない。

では、この行動圏を、現在計画されているリゾート開発の計画地と比べてみよう。図の中でうすいアミの部分はリゾート法によって指定されたリゾート計画重点整備地区であり、やはりほぼイヌワシの行動圏に重複する形で計画されている。

この地区のイヌワシのつがいは、1984年の観察以来、7年間連続で幼鳥を巣立たせることに成功してきたが、1991年は幼鳥が衰弱して保護され、1992年はヒナが餓死してしまい繁殖は失敗した。これまで良好な状態で繁殖を続けてきたこの地区のイヌワシが、つがいである成鳥2羽の維持には無理がないものの、これまでのように安定した繁殖活動を維持できなくなりつつある状況にあると考えられる。

今年のまとめをみただけでも、この地域のリゾート開発の事業主体や秋田県は、イヌワシの行動圏や繁殖の状況を事前に十分把握しないまま計画を立案し、開発を実行に移そうとしていたといえる。このような事実は、この地域だけでなく全国のリゾート開発の進め方に見直しを求める重要な資料となるだろう。

今後NACS-J保護部と日本イヌワシ研究会では、食物連鎖の頂点に立つイヌワシも生息できる環境とこのリゾート開発の関係を検討する上で、より具体的な資料を作れるよう、残る調査期間を活用しできる限り調査を行う計画である。

(NACS-J編集部)


イヌワシ(ニホンイヌワシ)

ニホンイヌワシは、北半球に分布するイヌワシの日本と朝鮮半島における亜種といわれる。日本では北海道を除く全国に生息する。ノウサギ、ヤマドリ、大型のヘビなどを主な餌とする、山地生態系の頂点に立つ大型猛禽類。崖や急斜面にある岩だなに営巣し、ふつう二個の卵を産む。しかし、巣立てるのはほとんどの場合1羽だけである。日本イヌワシ研究会の調査によると、現在日本に約300羽、あるいは120つがい程度が生息しているが、その繁殖率は下がり続けている。同会は最近10年間の調査から「全国的に減少傾向」と解析している。

環境庁が昨年まとめた、日本の絶滅のおそれのある野生生物を選定した「レッドデータブック(脊椎動物編)」では、絶滅危惧種として記載されている。

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