社団法人 北海道自然保護協会
会長 小暮 得雄
財団法人 日本自然保護協会
会長 沼田 眞
大雪山国立公園内の「道々士幌然別湖線」建設に関する
自然保護上の取扱いについての意見書
大雪山国立公園内の「道々士幌然別湖線」建設に関する自然保護上の取扱いにつきましては、すでに昭和63年8月6日づけで別紙写1の通り、貴職に要望いたしております。この道路は先の意見書に詳述しましたように、明らかに大雪山国立公園の自然保護理念に反するものです。そのため、昭和47年に工事が中断され、さらに翌昭和48年の自然環境保全審議会における「林部会長談話」によって、事実上凍結されて現在にいたりました。しかるに、昭和62年8月19日の参議院環境特別委員会における政府委員の自然保護への消極的答弁を契機として、事業主体の北海道は、現在工事再開に向けて準備をすすめております。
この道路にかかわる「公園計画、公園事業」が決定された昭和40年当時に比べると、現在はこの道路をめぐる自然的・社会的状況が大きく変化しています。当時は基礎的な自然環境調査も行われておらず、この道路予定ルートが希少な野生動植物であるナキウサギの生息地やコマクサの自生地を貫通することは、その後に判明したことです。これらの地域は、上記二種類の野生動植物にとって、純粋の高山帯に至らぬ低標高地帯における重要な生息・生育地です。かりに一部をトンネルにするなどの設計変更をしても、ルートは大雪山国立公園の中枢部である特別地域を貫通し、貴重種の生息・生育地を含む多様性の高い自然環境全体への悪影響は避けられません。
本年6月、わが国の国会では「絶滅のおそれのある動植物の種の保存に関する法律」が採択され、また環境と開発に関する国連会議においては「生物多様性条約」が調印されました。絶滅のおそれのある野生動植物とその生息・生育地を保全することは、いまや将来の世代に対する義務であるという認識が高まっています。
(社)北海道自然保護協会では、昨年から二回にわたって、本道路の必要性、本道路のもたらす効果などについて北海道に質問書を送付していますが、事業主体の道土木部でさえ具体的な説明ができないのが実状です。このような道路を、貴重な自然環境を揖なってまで整備する必然性は全く認められません。
そして何よりも、この道路計画は、大雪縦貫道路計画が撤回された昭和48年の自然環境保全審議会における「林部会長談話」の方針に根本的に相反するものであります。にもかかわらず、この道路にかかわる「公園事業」は「林部会長談話」以前の承認なので当然の既得権として執行してもよい、という判断に導かれるとしたら、自然保護行政上に大きな汚点を残すことになります。
「大雪山国立公園は、今日わが国に残されている極めて限られた原始的自然の地域の一つであり、これを保護・保存することは非常に重要である」という「林部会長談話」は、
20年後の現在、大雪縦貫道路問題当時よりいっそう重みを増した「基本認識」とされなければなりません。
以上の理由から、(社)北海道自然保護協会および(財)日本自然保護協会は、環境庁に対し次のように要望いたします。
1、大雪山国立公園の公園計画を早急に見直し、国立公園内の道々士幌然別湖線を公園事業から削除すること。
2、林部会長談話は、国立公園等における道路建設に関する環境庁の基本姿勢を示すものであり、これ以前に承認された計画であるか否かにかかわらず、これから着工するすべての事業に適用されることを確認すること。
3、事業主体である北海道からの計画変更申請を待つことなく、林部会長談話の趣旨に基づき北海道による当該事業を指導すること。
北海道知事
横路 孝弘 殿
社団法人 北海道自然保護協会
会長 小暮 得雄
財団法人 日本自然保護協会
会長 沼田 眞
大雪山国立公園内の「道々士幌然別湖線」建設に関する
自然保護上の取扱いについての意見書
大雪山国立公園内の「道々士幌然別湖線」建設に関する自然保護上の取扱いにつきましては、すでに昭和63年8月6日づけで別紙写1の通り、貴職に要望いたしております。この道路は先の意見書に詳述しましたように、明らかに大雪山国立公園の自然保護理念に反するものです。そのため、昭和47年に工事が中断され、さらに翌昭和48年の自然環境保全審議会における「林部会長談話」によって事実上工事が凍結されて現在にいたりました。しかるに、昭和62年8月19日の参議院環境特別委員会における政府委員の自然保護への消極的答弁を契機として、北海道により、現在工事再開への準備がすすめられています。
この道路にかかわる「公園計画、公園事業」が決定された昭和40年当時に比べると、現在はこの道路をめぐる自然的・社会的状況が大きく変化しています。当時は基礎的な自然環境調査も行われておらず、この道路予定ルートが希少な野生動植物であるナキウサギの生息地やコマクサの自生地を貫通することはその後に判明したことです。これらの地域は、上記二種類の野生動植物にとって、純粋の高山帯に至らぬ低標高地帯における重要な生息・生育地です。かりに一部をトンネルにするなどの設計変更をしても、ルートは大雪山国立公園の中枢部である特別地域を貫通し、貴重種の生息・生育地を含む多様性の高い自然環境全体への悪影響は避けられません。
しかも、この道路を必要とした当初の理由である「山火事対策」はすでに山麓部分の道路整備が完了したことによって充足され、また山火事の発生もほとんどなくなっています。また士幌町から然別湖畔へは現在でも車で到達することが可能で、距離の短絡効果はきわめて少なく、(社)北海道自然保護協会による二回の質問書への道土木部の回答を見ても、事業主体の道でさえ効果を具体的に説明することができないのが実状です。このような道路が貴重な自然環境を揖なってまで整備される必然性は全く認められません。
そして何よりも、この道路計画は「大雪山国立公園は、今日わが国に残されている極めて限られた原始的自然の地域の一つであり、これを保護・保存することは非常に重要である」という「林部会長談話」の方針に根本的に相反し、わが国の国立公園行政を確実に後退させるものです。
北海道は、平成元年に「北海道自然環境保全指針」を作成・発表し、その中で「然別湖周辺」は「すぐれた自然地域」に選定されています。また同指針の中で、「東ヌプカウシ山周辺」のナキウサギ、カラフトルリシジミ、コマクサ等の生息・生育地は、いずれも「保護水準?(当該自然とその環境がそのままの状態で維持できるように周辺を含めて厳正な保全を図る)」に位置づけられています。
この「北海道自然環境保全指針」の序文で、貴殿は「道では、この指針に盛り込まれた理念や基本的な方向性を踏まえ、今後の自然環境保全施策を進めてまいりたいと考えていますので、道民の皆様の御理解と御協力をいただければ幸いです」と述べておられます。にもかかわらず、指針を作成し「道民の皆様の御理解と御協力」を求める立場にある知事自らが、率先して指針に反する道々士幌然別湖線の事業を執行するようなことがあれば、「北海道自然環境保全指針」そのものが足元から崩壊することになります。
(社)北海道自然保護協会および(財)日本自然保護協会は、貴殿が昭和40年代当時の時代背景と古い価値観に基づく「公園事業承認」に固執することなく、「北海道自然環境保全指針」にうたわれている今日的な環境保全の理念と方針に従い、道々士幌然別湖線を予定ルートに建設することを中止されるよう強く要望いたします。 |