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「固有種の保存庫」小笠原の自然保護を

1991.10.01
解説

会報『自然保護』No.353(1991年10月号)より転載


地球規模で見た小笠原の重要性

小笠原諸島は、他の陸域から遠く離れた海域に位置し、しかもかつてどこの大陸とも陸続きになったことがない「大洋島」です。そのために、世界でも小笠原でしか見られない数々の固有種の存在が確認されており、特に兄島の自然状態は良好です。

近年、環境問題を考える上で「生物の多様性の保護」ということが強く叫ばれています。1992年にブラジルで開かれる「環境と開発に関する国連会議」でも主要テーマに上げられている「生物の多様性」を考えた場合、兄島を含む小笠原諸島の生体系は、最新の注意で残していかなければいけないといえます。

兄島の陸上生体系の貴重さ

空港建設が予定されている兄島の中央部は中心にした、原生的な自然環境がまとまった面積で残っている地域です。現在、小笠原諸島の植物のうち36.9%は固有種であることがわかっており、その中の何種かは「我が国における保護上重要な植物種の現状」(レッドデータブック)にも記載されています。兄島の「乾性低木林」にも多くの固有植物種が存在します。

もともとは、兄島と同じ「乾性低木林」に覆われていたと考えられる父島などの島々では、人間の影響によってその面積が狭めらています。そのため、父島の固有植物は、危機的な状況に陥っています。兄島中央部は、小笠原の固有植物にとっては、なくてはならない場所なのです。

ここに1800mという規模の滑走路を持つ空港が建設されるとすると、その自然の大半が破壊されてしまいます。また、兄島中央部に多く生息している固有の陸産貝類(カタツムリの仲間)や昆虫類が生きていくためにも、まとまった広さを持つ、「乾性低木林」が必要で、空港建設が実現した時には、それらはすみかを失い、種の存続に多大な影響を受けることは確実です。

この地域は国立公園ですが「普通地域」でしかない!

前記のように、兄島の自然の重要さは近年の調査などによって確認されています。しかし、なぜここに空港建設計画が立てられたのでしょうか。その理由の一つは、ここが国立公園の普通地域であり、建物の建設などについての規制がゆるい地域だからです。しかし、この指定は十分な調査がなされない時代に決められたものであるため、小笠原を調査してきた学者グループも、地域指定の見直しを要望しています。今回の当協会の意見書でも、地種区分の格上げを要望しました。

周辺の海への影響も

兄島と父島の間の兄島瀬戸は、そのほとんどが海中公園に指定され、また、美しい珊瑚の群落や、豊富な魚種などが見られるため、ダイバーの主要ポイントともなっています。しかし、 空港建設そのものに加え、滝之浦の港湾工事、滝之浦から空港までの道路建設工事などにより、この海が影響を受けることが考えられます。特に、沖縄同様の赤土の産出による被害の影響は大きいと危惧されます。

小笠原という島の大きさと観光開発

小笠原諸島は決して大きな島々ではありません。空港計画では、中型ジェット機(B737クラス)が就航できる規模の空港建設を目指していますが、飛行機によって大量の観光客が小笠原を訪れた場合、自然環境に多大な影響を与えることが心配されます。

小笠原独特の自然を守れ

以上のような、世界的にも重要な小笠原の自然を守ろうと、すでにこの計画に反対の声を上げる人々もいます。小笠原の自然について研究している研究者グループ(「小笠原自然環境研究会」)のほか、1990年10月には、小笠原村の人々による「小笠原の空港建設を考える会」も発足され、兄島空港建設の見直しを求めて活動しています。

NACS-Jは、世界でも小笠原にしかないユニークな自然を島のくらしと両立させつつ次世代に受け継げるよう、この問題に取り組みます。

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