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尾瀬ヶ原 見晴地区の排水対策計画に関する意見書

1990.08.24
要望・声明

平成2年8月24日

環境庁長官 北川 石松 殿
文化庁長官 川村 恒明 殿

尾瀬ヶ原 見晴地区の排水対策計画に関する意見書
(尾瀬保護問題小委員会中間報告にかえて)

財団法人 日本自然保護協会
会長 沼田眞

1.尾瀬保護問題小委員会の設置について

日光国立公園・尾瀬地区は、わが国の国立公園の中でも極めて特徴があり、特別天然記念物にも指定されたその高層湿原を中心とする自然環境の維持には、人為的な影響の排除に細心の注意を要する。しかし、一方では道路、鉄道等によるアクセスの容易化と国民の余暇時間の増大のため、オーバーユースといわれるまでに利用者数が増加し、さまざまな影響が避けられない状態になっている。このことは 関係官庁、研究者 山小屋関係者 自然保護団体の一致した見解である。

これまでも民間団体や研究者から多くの問題提起が行われてきたが、昭和62年「尾頗を守る懇話会」は国に対して提言を行い、入山制限のための入山料構想を提案した。一方、環境庁でも汚水対策費の利用者負担としての料金徴収を検討していることが報道されたことから、山小屋組合、自治体、山岳団体などに大きな反発が広がり、そのため社会的には、入山料問題だけが先行して取上げられる状況となった。しかし、尾瀬の保護についての根本約かつ効果約な対策の検討はほとんど行われていない。

そこで当協会は、 日本自然保護協会発足のきっかけともなった尾頗の保護・管理のあり方を総合約に考え直し、その上で諸問題への対策・提言をまとめるため『尾瀬の理想的将来像の構築と現状での保護対策に関する研究』をテーマに小委員会を設置し、次の事項について独自の検討を行っている。

(1)保護の理念と望ましい利用形態
(2)利用者の動態 植生変化などの状況
(3)山小屋など域内施設のあり方
(4)公園管理のあり方
(5)バファゾーンとしての周辺地域のあり方

2.中間報告にかえた意見書の趣旨

集団施設地区のし尿、雑排水処理は、尾瀬の保護管理の中で最も深刻な問題である。特に見晴地区では、し尿はそのまま山林内に投棄、雑排水は湿原に直接流されている。このため利用者の急増にともない、湿原の富栄養化で、ヨシ群落が広がるなどの植生変化があらわれ、緊急な対応が求められている。

環境庁は平成2年度において同地区のキャンプ場、公衆トイレの合併浄化槽の設置を行い、なおパイプラインによる処理水の集水域外への放流計画をすすめている。

これは、問題解決のためのひとつの手法ではあるが、このような形の対策が将来にわたって尾瀬の保護のあり方にどのような影響を及ぼすかを慎重に検討する必要があると考えられる。以上のことから、特にこの問題について、本報告に先立って中間報告にかえた意見書で当協会としての見解を表明することとした。

3.汚水問題に対する基本的考え方

環境庁のパイプライン計画は、いわば尾瀬の汚水処理の「下水道化」であり、都市型技術の自然地域への導入である。水の汚濁は、本来入山者等が外から持ち込んだ負荷であり、それを再び外に捨てることは一応の対応策と考えられる。また浄化槽による処理は、高冷地のための生物的処理の非効率性など部分的問題点はあるものの、パイプラインによる当該地域の集水域外への汚水の排除は、技術的には可能である。

しかし、このシステムが実行に移された場合、宿泊者数の制限、入浴の自主規制などこれまでの自然保護を主眼においた利用形態のあり方との矛盾、および水系への影響とそれによる高層湿原への悪影響の危険性が認められる。

以上のことから、その方式の採用・設置を決定する前に、総合的かつ十分な保護管理計画の検討が早急に必要である。

特に指摘したい問題点は次の2点である。

総合的な保護管理計画との整合性の問題

機械と動力を利用すれば、下水道施設は相当の処理能力を持ち、仮に今後利用者がさらに増加したとしても、処理水の圧送によりその処理は可能となる。しかし、し尿処理だけが保護対策のすべてではない。利用者の増加による多面的なインパクトから尾瀬を守るためには、一日も早くその利用形態のありかたと管理の原則を再検討し、その中で設定すべき環境容量に基づいた排水処理量の限度を明確に定め、今後の利用者の無秩序な増加に歯止めをかけなければならない。

この処理量の目標値は、見晴地区における宿泊者数や通過入山者数の凍結ないし縮小との関係で設定されるべきである。また今後さらに、より湿原への影響の少ない地点への宿泊施設等の再配置の検討も含む抜本的対策を、恒久的施設の建設前に策定すべきである。

尾瀬ケ原集水域への影響

パイプライン計画により処理水を只見川に放流することによって、尾瀬ケ原の水収支に少なからぬ影響を故ぼす危険があることが予見された。尾瀬ケ原の水位は、尾瀬沼からの発電取水によってすでに大きく低下しており、特に下田代の乾原化には自然の遷移のほか沼尻川の低水流量(年間で275日間はこれを下回らない流量)低下の影響が極めて大きいと考えられる。

今回計画のパイプラインの処理量は、圧送しても1日500m3程度と推定される。この量は、通常の状態では絶対量として致命的な取水量ではないが、将来の宿泊利用の形態変化による取水量増が危惧されると共に、夏の渇水期における低水流量日には、湿原への水の供給量がパイプラインによるカット量を比率において下回る事態が十分予想できる。

その意味において、このパイプライン計画はたとえ小規模であっても混原への供給絶対水量を確実に滅らすものであり、問題の本質的な解決にはならない。

以上の考察から、計画されている排水処理対策については、

  1. パイプライン方式の採用には問題が多く、その導入については今後さらに十分な時間をかけて慎重に検討すべきである。
  2. キャンプ場、公衆トイレの合併浄化槽の設置については、3次処理法の検討を前提においた実験的設備として設置し、効果を追跡するものとすべきである。
  3. したがって、全山小屋への合併浄化槽設置の方針は一時凍結し、公園管理の全体的な見直しをまずすすめ、それと整合し、かつ湿原の水収支に影響を与えない排水・し尿処理方法の検討と、2)の追跡結果等を比較検討した上で、改めて判断すべきである。

4.今後の対策検討について

以上述べたように、当協会の結論は、まず公園管理の全体的総合的な見直しを急ぐべきとするものであるが、その検討に当たっては関係自治体、利害関係者だけですすめるのでなく、専門家、民間研究者、自然保護団体を含めて調査結果や意見を十分聞き、環境庁が特別天然記念物所轄官庁としての文化庁と共にその調整のリーダーシップをとることを強く要望する。

尾瀬の保護管理については、これまで「日光国立公園尾瀬地区保全対策推進連絡協議会」で検討されてきたが、この協議会は関係行政機関で構成され保護管理の専門的立場を無視したものとなっている。ことに、入山者の実態、オーバーユースの判定、植生、水位・水質の変化などの重要な問題についての継続的な調査研究体制がつくられていない現状に鑑み、まず公的機関、民間団体の情報と見解を集めて尾瀬の将来像の策定に資するべきである。

それによって、今後予想される周辺地域のリゾート開発、観光需要の増大に対しても、固有の生態系を持つ尾瀬の自然の質がいささかなりとも損なわれることのないよう、適切に対処できる方策を早急に講じることが急務である。

また環境庁は、今回の排水対策実施に至るまで3年以上にわたって調査検討を続けているが、その経過・内容を公開していない。この点についての公表と十分な説明を要請したい。

*この意見書は、下記の尾瀬保護問題小委員会でまとめられた原案を、(財)日本自然保護協会・保護委員会でさらに検討のうえ作成された。

(財)日本自然保護協会保護委員会・尾瀬保護問遁小委員会

日本自然保護協会理事
水野憲一(委員長)
日本自然保護協会理事
奥富 清
日本自然保護協会理事
金田 平
毎日新聞社整理本部長
後藤 允
東京農業大学教授
塩田敏志
横浜国立大学助教授
藤原一緒
福島県自然保護協会会長
星 一彰

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