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科学的に客観的な判断に導かれた結論とはいいがたい」

1990.01.22
要望・声明

長野冬季オリンピック招致委員会自然保護専門委員会の答申に対する(財)日本自然保護協会のコメント


 

1990年1月22日

 

長野冬季オリンピック招致委員会自然保護専門委員会の

答申に対する(財)日本自然保護協会のコメント

 

(財)日本自然保護協会

 

冬季オリンピック開催にあたっては、新たな自然破壊をもたらしてまでの開催は、自然環境保全上の立場から大きな問題であり、これは近年の国際世論でもある。従って、コース開設や施設設置については、新規開削をせずに既存施設を活用することによって自然環境への影響を避けることが開催にあたっての大前提となるにもかかわらず、今回の判断に立ち至ったことはまことに遺憾であり、今後の国内外への影響が憂慮される。

今回の判断は、「志賀高原岩菅山自然環境調査報告書」によるところが大きいが、岩菅山変更案については、気象・植生など各論の考案では自然環境保全上の問題点の指摘が多いにもかかわらず、「岩菅山変更案を妥当とする」報告書の結論との問にギャップがおおきすぎるといえる。またその考察にしても、何故か岩菅山コース開設を前提とした上て、その調整点をさがしたというような表現が多々みられ、科学的に客観的な判断に導かれた結論とはいいがたい。

岩菅山変更案は、コース・リフト・駐車場など全面的な新規開設であり、標高差800m、距離3Km近<に及ぶ開発となり、自然環境に与える影響は無視できないものがある。純粋に科学的立場から評価するならば、岩菅山案(変更案を含む)が最も自然環境に与える影響が大きいことはこれまでの知見からも明白であ
る。

一部に誤解があるようだが、植生白然度は本来、現存の植生が、人為の影響によって自然植生からいかに隔たっているかを表現するものである。また、環境庁の自然環境保全基礎調査で用いられている10段階の植生自然度は、植生を便宜的に遷移の段階にそって並べたものであり、俣全の重要性をランクづけしたもので
はない。

従って、当該地域は原生林ではなく二次林を含む自然環境だから、あまり重要でないとの考えは、自然環境に対する評価をゆがめることにつながりかねない。当該地域の重要性は、岩菅山稜線をはさんで広がる魚野川原生流域に隣接する緩衝地帯としての役割であり、しかも、地権者みずからが「和合会の歴史(下)」で指摘しているように、志賀高原全体は過剰利用の状態にあり、そうした中で、面的にまとまって良好な自然環境が維持されているところにある。そのことの評価が、適切に反映されていないことに問題がある。

「多数の意見が岩菅山変更案でやむなし」とのことだが、もともと17名の専門委員のうち自然保護関係者は極めて少数であり、恣意的な判断にならざるを得ない委員構成となっている。また、委員長は委員会の席上で多数決判断をしないとの言明をしてきたが、これでは片寄った委員会構成の中で事実上の多数決判断がなされたのと変わらないことになる。

地球環境の危機が国内外で強い関心をよんでいる折に、新たな自然破壊をもたらしてまでの冬季オリンピック開催を、多<の国民は望んでいないことの現実を、招致関係者はもっと謙虚に受けとめる必要があろう。また岩菅山の良好な自然環境を犠牲にしてまで実施することになれば、オリンピックそのものの権威を失墜させ、国内的にも国際的にも批判が高まることは必定であり、そのことを強く危惧する。

 

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